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story of ―expar'e voices "ENTALENTA"―
祝花の乙女は赤き穢れを大樹へ還さん 其は緑窓の聖女と通じ、哀れな魂の転生促す奇跡の詩
原作:リリィ/脚本構成:加納景識/[楽曲連動]CINNERTH QUETLARIE_Track0002

第1話:『祝花の乙女-NIFIA-』 第2話:『赤幸の斎女-ETHEMINA-』

From Lily 小説はのんびり更新中~♪縦書きで考えた物を横書きで清書するのは難しいね~。

 祝花の乙女 ― NIFIA ―

「遥か昔、古代の民アンシエリザは栄華を極めていました。
しかし進みすぎた技術は、逆に人々を滅ぼしてしまいます。
世界が静まり返った頃、聖女サンソアがこの世に降臨されました。
サンソアは文明の滅びを嘆き、世界樹と箱庭とを創り、そこへ我々新人類を生み出しセレビノと名付けました。
この今の世界はサンソアによって守られ、循環しているのです」

まだ夜も明けぬ頃、絵本の一節を穏やかな声で読み終えてから少女は振り返る。

「ニーフィア様。どうか我等の魂をシナースケトラリアに…」
「来世はどうか、セレビノになれますように…」
 至る所から聞こえてくるそれは、祈りだった。
たくさんの燭台が厳かに立ち並ぶ薄暗い聖堂で、参列した人々が皆一様に跪いている。
彼らはその赤い双眸を前方の祭壇に向け、敬虔な様子で何かを待っているようだった。
視線の先にいたのは絵本を片手に持った愛らしい少女。

「それではこれより祝花の乙女(ニーフィア)の名の下、あなた方の穢れを解き放ち、祝福を与えます」

どこか誇らしげな表情でそう宣言した彼女はゆっくりと聖堂を見回し、そしてたくさんの参列者達に向かって女神のような微笑を投げかける。
「またお会いできるのを、楽しみにしていますね」

次の瞬間その場に響き渡ったのは、優しく、澄みきった歌声だった。



この世には、二種類の人種が存在する。
そのひとつがここに集まる赤葬の儀(ロストラータ)の参列者達だ。その表情には一様に疲弊が滲んでおり、身だしなみも質素で小汚い。
彼らはこの世界に蓄積される穢れを背負い、生まれた時からその双眸(そうぼう)に罪の証を宿して生きる。
何とも哀れな種族だ。彼の者達の両の目には誰一人違わぬ深い赤が鈍く、うつろに光っている。

《禍罪(まがつみ)の民》、またの名を《ヴェルメルノ》
いつしかこの世に発生して以降多くの人々に忌み嫌われ続ける彼らは日に日に増加の一方を辿っており、
まるでパンデミックを思わせるようなその現象にこの世の人々は皆、言いしれぬ不安を抱えていた。

―"何としても穢れは浄化せねばなるまい"―

そんな大義の下、世界の中心にそびえたつ神聖なる大樹シナースケトラリアに、彼の者達の不浄の魂を導き、もう片方の清き正しき種族へと転生を促す。
《赤葬の儀(ロストラータ)》とはそういう儀式だ。
毎日のように粛々と執り行われるそれは、此の地レギンレイヴ王国のとある聖堂にて今日もいつもどおりに始まろうとしていた。
そして、先ほどから常にそんな穢れた赤の視線を集め続ける小柄な少女、《ニーフィア》と呼ばれた彼女だけが、この広い聖堂の中でたった一人、澄んだ空のような美しい瞳を輝かせている。
どこか小汚い雰囲気の参列者達とは人種、気位、その何もかもが異なるのは誰の目にも見るに明らかだ。
ただ、絵本の読み聞かせを行っていた先ほどまでの愛らしい少女は「歌」の始まりとともに姿を隠し、今、その身に纏う空気が醸し出すそれはまるで神のような威厳を湛えていた。
赤き双眸でその光景を見つめる者達は皆一様に涙し、やがて安堵したような表情を見せると響き渡る歌声に身を任せる。
すると彼らの瞳は次第に、元々弱々しく灯っていた力すら失い、一人、また一人と脱力していくのだった。
そんなことは知ってか知らずか、少女の歌声はさらに拡大していく。



やがていつしかどこからか聞こえ始める、優しげな少女とは明らかに別の異質な音色。これは果たして誰の歌声だろうか。
天使すらも想起させるその荘厳な声色は、"祝花の乙女"(ニーフィア)の旋律と重なって美しいハーモニーを奏でていた。
立ち尽くす者、その場に倒れ込む者、全ての参列者達の体から暖かい蛍火のような粒子が立ち上り、やがて彼らは皆その形を霧散させていく。
そうして聖堂が暖かな光で満たされ静寂に包まれた頃、少女の歌は佳境を迎える。
光の粒子はその姿を花びらに変え、導かれるかのように大きく開かれた聖堂の窓を飛び出した。
夜空に色とりどりの花びらが星屑のように放たれ、それらは"その先に見える大樹"(シナースケトラリア)へと風に乗って運ばれていく。
ひらひらと舞い上がる花びらを迎えるかのように、大樹の陰からはいつしか美しい朝日が昇り始めていた。
慈愛に満ちた優しい旋律を高らかに歌いきることで今日もまた務めをを果たした少女の表情は、まるで憑きものが取れたかのように無邪気だ。
彼女は夜が明けたのを見るや否や「よし」と意気込む。
たった今まで目の前に居たはずの数百の人間が跡形もなく消え去り、壇上に独り残された彼女だったが、
そんなことは既に気にも留めていない様子でスキップをしながら聖堂の出口へと向かっていく。

「早くカーラを起こしにいかなくちゃ!」
柔らかな朝日を浴びて美しく輝くまだ静かな城下街の大通りを、少女は軽やかに駆けていく。


 赤幸の斎女 ― ETHEMINA ―

それはいつもの夢だった。

『産まれてきた姫は赤眼の忌み子だったらしい』
『ヴェルメルノ・・・穢れた娘・・・』
『王室に禍罪を持ち込むなど・・・この恥さらしめ』
『お前など・・・産まなければよかった』

浴びせられる罵詈雑言。産まれてから十二年、あたしの日常はこれだった。
でも、もうすぐ光が手を差し伸べてくれる。
どんな暗いところにいても私を見つけてくれる光が。

「カーラ! カーラってば!」
一際大きな声と重量感が急激に押し寄せる。

「重い・・・クッカ・・・」

自らの名前を呼ぶとてつもなく明るい声が広い部屋いっぱいに響き渡り、先ほどまで苛まれていた悪夢の淵から半ば無理やり呼び戻された黒髪の少女は少し鬱陶しそうにゆっくりと目をあける。
部屋に入ってきた小柄な少女の手によっていつのまにか開け放たれた重厚感たっぷりのカーテンが遮ってくれていたはずのまばゆい朝日が眠そうな彼女にさんさんと降り注ぎ、
迷惑そうに細く開かれたその両瞼の奥では鮮血のような赤い光がきらきらと輝きを放っていた。
"カーラ"と呼ばれた少女は、自らの上に馬乗りになって唇を尖らせている少女を軽く押しのけると仕方がなさそうな様子でのろのろと上体を起こす。
そんなけだるげな少女を吸い込まれるような空色の瞳で覗き込んで様子を窺っているのは"クッカ=アン=パフィキノイヒ"、
今し方叩き起こされた赤眼の少女の幼馴染であり、幼い頃からの一番の親友だ。

「もうお昼前だよ」
「いーのいーの、あたしは、イセミナだから」

今も昔もこうやって起こしにくるのなんて、クッカくらいだ。
昔はあたしの部屋になんて誰も寄り付かなかったし、今は今で…

押しのけられたクッカはそのままベッドを降りると、相変わらず明るい声でカーラに身支度を急かしながら部屋の端でがさごそと何かを探している。
まるで小さな子供に言い聞かせる母親のような物言いをする彼女を横目に相変わらず広いベッドの上で大欠伸をしているだけのカーラだったが、
やがて金の装飾が施された仰々しい衣装棚の中から見繕ってきたにしては少々質素な少女お気に入りの黒いドレスが三着、
頬を膨らませたクッカの手によってベッドの上に投げ込まれる。
それを見て尚、わざとらしく欠伸をしているだけの赤目の少女がとうとう無理やりパジャマを剥がれてその中の一着に着替えさせられたところでようやく二人は一緒に部屋を後にするのだった。
大暴れしたのか、赤目の少女の長い黒髪は若干ぼさぼさに乱れてしまっていたが、彼女がそれを気にする素振りはない。

 相変わらず格調高い雰囲気の廊下が、見渡す限り続いていた。
それもそのはず、ここは世界一の大国、レギンレイヴ王国。その第一王宮の最上階の一画である。
昼の食事の用意なのか、小綺麗な格好の召使達が至る所で慌ただしく働くその厳かな宮殿の廊下を若干不機嫌な様子で、
だがしかし堂々と歩くカーラに彼らの視線は一様に集中するが、少女がそれを気にする素振りもまた微塵も見られない。
何にも動じぬ赤き穢れをその双眸に湛える彼女の額には、花だろうか…?
これまた赤く象られた不思議な紋が浮かんでいる。

「"神の種子"(リーリエ)だ、なんとお美しい…」
「カーラ様よ」
「この目で見られるなんて…」

辺りからはひそひそとたくさんの声が聞こえてくる。
中には膝をついて祈りを捧げるような仕草を向ける者さえいた。

"―何もかもが昔と違う。"
少女はそんなことをぼんやりと思う。カーラは今年で十七歳になっていた。

「カーラは相変わらず人気者だなあ」
 嬉しそうに、いや、誇らしげに、だろうか。
隣をウキウキとした様子で歩くクッカの屈託のないこの言葉にカーラは心底呆れた様子を見せ、ぶっきらぼうに否定を返す。
「それあんたでしょ?たくさんの人が毎日あんたに救われてる。少なくとも私にはあんな歌、歌えない」

(・・・歌いたくもない。)
心の中でそう悪態をつく。

「それに・・・」
明らかにきょとんとしているクッカにまたもや呆れながらも、気を取り直すように少し畏まってからカーラは続ける。
「世界再生の歌はあんただからこそ歌えるんだよ。あんたじゃないと、ダメなんだ」

  (あたしもそちら側に生まれていれば、あんなに綺麗な謳が歌えたのだろうか。)
(話した事もない他人の為に。世界なんていう訳の分からない物の為に。)

(・・・ありえないや。)

カーラは小さく溜息をこぼす。
彼女が晴れない霧のような感情に苛まれていることなど露も知らず、褒められたクッカは慌てた様子で手を横にぶんぶんと振っていた。

「そんなことないよ~。はぁ…。この前もお母様にはまだまだですって言われちゃったし…。もっと頑張らなきゃなあ…」
おそらく彼女には彼女なりの悩みがあるのか、クッカもまた盛大に溜息をついて虚空に向かって愚痴をこぼし始める。わりと深刻な問題のようだ。

世界を滅びに導く得体の知れぬ穢れを浄化し、この世界を支え続ける祈りの歌。
《エンタレンタ》と呼ばれるそんな特殊な魔法を扱えるのはこの世の神とされる存在から祝福を授かりし清き正しき民、《セレビノ》の中でもごくわずかだ。
《祝花(まいか)の乙女》またの名を《ニーフィア》と呼ばれる彼女達は、その神聖な御力を持つが故に、
今も尚この世界のどこかで"祝福の民"(セレビノ)を見守っていると語り継がれる《"聖女"(サンソア)》の敬虔な使徒と位置づけられており、世界中の人々から崇められ続けている。
そんな希少な存在の中でも特に優秀なこの少女クッカは、毎日のように懸命に歌を紡ぎ、この世界の平和を保つ役割を担っている。
彼女はカーラと同じでまだ十七歳になったばかりなのだが、既に数万もの"禍罪の民"(ヴェルメルノ)の、
穢れを宿した哀れな魂を大樹シナースケトラリアの聖女のもとにお返ししているという、とんでもない実績を誇るレギンレイヴ王国きっての歌姫だ。

「でもね・・・」
ころころとよく表情の変わる少女は、さっきまで溜息をついていた情けない表情とはまったく異なる明るい瞳でカーラに向き直り、そしてはにかんだような笑みを浮かべてこう言った。

「カーラに褒めてもらえるのは、すごく嬉しいな」

(あぁ、もう、しょうがないなあ…。)
困ったような表情でカーラが目の前の親友に向かって何かを言いかけたその時。

「あ、あの、カーラ様」
召使の一人がおどおどとした様子でカーラに声をかけた。
「明日の"大赤葬の儀"(ヘリコニア)の成功を祈って、その、お守りを作ってみたんです。もしよろしければもらって頂けないでしょうか…?」
「うわあ、とっても綺麗!よかったね、カーラ!」
「・・・・・・・・・」
素直にはしゃぎながら「聖女様もきっとあなたの想いを汲み取って下さるわ」などと優しげな顔で称賛の言葉を口にする"祝花の乙女"(ニーフィア)の少女に
恐縮しきった様子を見せる召使の女性が差し出し続ける、カーラの額に浮かぶ聖痕と同じ紋が細やかに描かれたお守りを
少しの間を置いて無感情な様子で受け取ったカーラは、クッカとは対照的に一言も謝辞など述べずにまた歩き始めてしまう。
召使の女性はそんな赤眼の少女の態度に気を悪くすることもなく、ただただ喜ばしいといった様子で二人が見えなくなるまで深々と頭を下げ続けていた。

カーラが廊下を曲がったところで、ぶっきらぼうな少女の代わりに召使に手を振っていたクッカが追いついてくる。
「どこにつけるのー?」
「・・・つけない」
底抜けなく明るい親友のそんな質問にかなり苛立った様子を見せて、
カーラは突如手渡されたお守りをこれでもかと言わんばかりの勢いで窓の外に投げ捨てる。
突然の親友の行動に呆気に取られた様子を浮かべたクッカは、
「カーラなんてことするのおおお⁉」
と、弧を描いて飛んでいくお守りに手を伸ばしながら素っ頓狂な声を上げて窓の下を覗き込むが、
カーラが投げ捨ててしまった手のひらサイズの小さなそれは待ってくれるはずもなく遙か彼方へと落ちていくわけで、
彼女がいくら目を凝らしたところで見つかるはずもなく、残念ながら城の外に広がる広大な林へと音もなく吸い込まれて消えていく。
「あぁぁぁ…」と情けない声を発しながらクッカは非常に残念そうな様子で見渡す限りの緑に向かって項垂れていた。

「うざったいのよ、こういうの」

そう、今は今で、周りは何かとあたしを構いたがる。
この額に神の種子(リーリエ)を宿した途端に王宮中が揃いも揃ってこのざまだ。
あいつらが言うにあたしの命は世界樹に住む聖女殿に選ばれたものらしく。
この命を捧げることでこの世界の繁栄が約束されるんだとか…?

「冗談じゃないわよ…」
「え、何か言ったカーラ?」

小さく吐き捨てるように呟いたカーラに、ようやく諦めた様子で窓から離れて隣に戻ってきたクッカが尋ねる。
その顔は完全に呆れ顔だ。どうやら彼女、赤眼の親友のおかしな行動にはすっかり慣れてしまっているようだった。

「なーんにも。それよりあんた、明日の"大赤葬の儀"(ヘリコニア)、ちゃんと歌えるんでしょうね?」
唐突に新しい話題を振られて再びきょとんとした表情を見せたクッカは、
その後すぐに今までで一番眩しい、屈託のない笑顔を浮かべて胸を張る。
「まっかせといて!カーラがちゃんと転生できるように精一杯歌うから」

現世界最強の"祝花の乙女"(ニーフィア)のその笑顔には迷いなど微塵もなく、儀式の失敗は有り得ないと、この時のカーラは確信する。
"聖女"(サンソア)とやらはこの娘に地位も、名誉も、才能も与えたのだから。だから、きっと大丈夫。

そう、カーラは明日、クッカに命を奪われる。



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