ノア・スピリット
Voice:あしゅのお歌
旧暦(高度文明期)
享年:38歳
属性:風属性
出身:西地(ファータ・クーラ)
新暦(人類滅亡後)
KEEPER=ARIES/牡羊座の守護者
役割:C-GE:機巧監査官
神託の巫女 / 運命に叛逆し幽妹
彼女の現在のコードネームはKEEPER=ARIES。
『牡羊座』の名をその身に冠する整備型アンドロイド。
常に謎の白玉を大量に引き連れており、彼らの力によってある程度の自衛戦闘も実は可能な特殊躯体である。普段は天真爛漫な性格で、誰とでもすぐに打ち解ける明るい少女だが、人形社会のトップを務めるSIR=GEMINIとだけは反りが合わないようで、顔を合わすたびに喧嘩を仕掛けては、さらっとあしらわれている。
“ロールレス”の処遇については中立的立場を貫き、あまりその話題には触れないようにしているようだ。どうやら、難しいことを考えるのが苦手なようである。
そんな彼女のオリジナルの魂の名は、ノア・スピリット。
今日は、主人公イヴと共に人類滅亡史の終幕をギリギリまで見届けたとされる“神託の巫女”の軌跡を追ってみよう。
キャラクターボイス
『騙されないんだからね。』
『すごーい・・・。これが“機巧”・・・?』
『ん~? 要は、この国でなんか悪いことする人がいて~。
神様はそれをよしとしないから、解決してきてってことじゃないかなぁ?』
STORY
▼『ノア・スピリットの軌跡』
西方の地は太古の昔、風を司りし旅神の管轄だったという。
元々は一大陸だったそうだが、ある時北方の冥脈の女神の怒りにより、大地は洪水に飲まれ、彼の地は海に隔たれた。1000年以上が経過したとされる現代において、ようやくセントラル及び南地側から二本の大橋がかけられ、昨今では人の出入りも盛んとなったが、それまでは北地からの危険な航海以外にこの大陸に足を踏み入れる手段はなく、また、主神の性質上、西方の魔素には意志が宿り、数々の不思議な生物が跋扈する“人外境”として畏怖され、彼らと契約を結ぶことを目的とする“召喚士”のみが出入りする大陸中央の大草原地帯は今でも都市開発が進んでいない。どうやら悪戯好きの妖精に翻弄されてしまうようで、行方不明者も後を絶たないという。
ノア・スピリットはそんな草原地帯のとある集落で生を受けたという。
幼い頃から召喚士としての才を遺憾なく発揮し、たくさんの魔素生物(妖精)達の守護を受けてきた彼女は、やがて旅神とも契約を果たし、かの神より“旅”に関する神託を賜った。
「北方にて、星の滅びを生む者あり。其は方舟にて彼の旅路へ我らを導け。」
星の滅びを生む者=リリス・マイヤだけど、ノアはこれをアダムだと勘違いする。
リリスのことはむしろ“方舟”の製造者だと思って崇めます。
方舟=新型カガリビトのことですね。
彼の旅路=人類が滅びた後の世界(楽曲の舞台)
我ら=もっちー達(要は新型自殺機構が働いた後に西方の生物を残せということ。
楽曲ENDINGの情景をヘルメスの神託にしてしまった感じです。)
姿の見えぬ旅神の神託は、一方的かつ端的な詩文だ。
ノア(14)「“滅び”だなんて、随分不穏な神託・・・。それに、“方舟”って何のことだろう・・・。
・・・うーん、全然わかんないや。とりあえず、北地に船旅してみるしかないか!
行ってみよう、ペコちゃん・・・!」
ペコラ「きゅっ・・・きゅー!」
ノア「え・・・?この装備じゃダメ? えぇ・・・“永久凍土”より寒い?
嘘だぁ・・・そんなとこに街なんかあるわけないじゃ~ん。」
(※Gelu Ventus=西地北方の凍てつく大地)
ペコラ「きゅ!!きゅ!?きゅ~~~~~!!!」(※「ほんとだってば!?」の意。)
ノア「騙されないんだからね。もう、妖精達はそうやっていつも私をからかうんだから。」
ペコラ「きゅぅ・・・。」(※「知らないからね・・・」の意。)
ノア「ふふふ~、初の東方大陸・・・!楽しみだなぁ・・・! 美味しいもの、あるかなぁ?♪」
▼ノアEP8-1(2077年):『北の大地へ』
※グランドシャリオット 航術の港『スタフトナス』にて
ノア「さ・・・寒ぅぅぅぅぅ~~!!!?」
ペコラ「・・・・・・。」(※すごくジト目。)
お気に入りの緑のワンピースに薄手のコートを1枚羽織って北地の港へ降り立ったノアは、早くも“凍土”の洗礼にあっていた。辺りは一面真っ白で、足元はそこらかしこ凍って気を抜くと滑るし、前が見えないほどの猛吹雪が吹き荒れていて、横殴りの白い塊がどんどん頭に積もっていく。
ノア「え、ちょっとペコちゃん・・・!? 何それずるくない?!いつもよりもこもこしてる・・・!」
ペコラ「きゅっ!!」(※「僕は対策してきたもん!」の意。)
ノア「いやぁぁぁぁ、嘘じゃなかったのぉぉ!?そうならそうって言ってよぉぉ!?
このままだと死んじゃうよぉ~~・・・。」
西方大陸は夜でも明るくどこも気候が穏やかで、暖かな日差しの差す草原に寝っ転がって一夜を過ごしたとてどうにかなってしまうわけで、このような厳しい環境を知る由もなかった世間知らずなノアはというと、完全に途方に暮れていた。道行く人に声をかけても皆、一様にぎょっとした顔をした後、足早に逃げていく。西方では旅人同士の助け合いは当たり前の光景なのだが、ここではそうではないようだ。
一人だけ親切な人が「あそこに宿があるよ」と教えてくれて、「助かった・・・!」とばかりに足を運んでみたものの、そこには今まで見たこともない煌びやかなネオンに包まれた幻想的かつ先鋭的な建物があり、御伽噺のようなドレスやスーツをまとった紳士淑女が優雅に行き来していて・・・、何とか入口の看板まで歩み寄って一泊の値段を見てみれば、目ん玉が飛び出るほどの高額な数字が並んでいて・・・「まずい、これは完全に場違いだ・・・」とすごすご引き返してきた、というのが今の状況だ。
ノア「どうしよぉ・・・。」
ノアはかじかんだ手に息を吹きかけながら涙目で座り込む。まさか降りたって早々死の淵に立たされることになるとは思ってもいなかった。最初こそ「対策してきた」などと豪語していた肩に乗る小さな妖精、ペコラもどことなく元気がない。
仮にも旅神の神託だ。そんな甘い話なわけがなかったのだ。
もうだめだ・・・と諦めかけたその時、彼女の前に一人の天使が舞い降りた。
リリス(16)「ねぇ、あなた・・・、大丈夫・・・?そんなとこで座り込んでると死ぬわよ・・・?」
顔を上げると上質な毛皮のコートを羽織って、もこもこの帽子をかぶった可愛らしい女の子が不思議そうな顔をしてこちらを覗いている。
ノア「あ・・・。可愛い・・・。天使さまみたい・・・。」
リリス「えぇ・・・? そうかしら・・・? おかしなことを言うのね。」
ふふふっ、と笑顔を漏らす彼女に、ノアは一気に目を奪われた。
聞けば彼女はこの街より少し北東にある“首都”の学生で、名をリリス・マイヤというそうだ。
今日は買い出しに来ていてその帰りだったとのことで、ノアの事情を理解した彼女はとても親身になってくれて、そんな天使のような少女のお言葉に甘える形で私は彼女の家にお邪魔することになったのだった。
ノア「おぉぉぉ・・・、これが・・・“電車”・・・!」
リリス「・・・西方にはこういうの、ないの?」
ノア「えぇ。向こうの交通手段は“アーヌの馬車”だけ!こんなすっごいの初めて見た!」
(※アーヌ=ロバ。要はロバっぽい風属性の生き物。)
リリス「アーヌ・・・?馬かなにかかしら・・・?」
ノア「あ、そっか。こっちの大陸の人にとって“魔素生物”は珍しいんだったっけ・・・?」
リリス「まぁ・・・、“魔素生物”・・・。話には聞いた事があるけど、本当にいるのね・・・?」
ノア「いっぱいいるよ~。ほら、この子もそう。」
ペコラ「きゅっ!」
呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん、といった勢いで、ノアの肩から飛び跳ねた白い毛むくじゃらがリリスの頭に飛び乗る。
リリス「きゃ・・・っ。びっくりした。これは・・・、毛玉・・・?」
ノア「ふふっ、“ペコラ”っていう妖精だよ。この子はペコラの王様だからペコちゃん。
こっちがみんなよりもちもちだから“もっちー”、この子は寝ぼすけだから“ねむるん”」
どうにも壊滅的なネーミングセンスで召喚されて次々と飛び出す白毛玉たちに、リリスはその可愛らしい目を丸くして、自分の周りを飛び跳ねるそれらをきょろきょろと眺めている。
リリス「・・・か・・・可愛い・・・。」
いつのまにやらリリスの頭や肩に落ち着いた彼らを眺めて、ノアは言う。
ノア「珍しいなぁ。ペコちゃん達、見た目はこんなだけど、これでもちゃんと妖精だから、
“契約者”以外にはあまり懐かないんだけど。」
リリス「・・・そ、そうなの・・・?」
大量の毛玉にその小さな顔を囲まれた少女は、戸惑ったような、でも嬉しそうな表情をして、
それから妖精達をおそるおそる指で軽くつついては和やかに交流を図っている。
ノア「(天使だ・・・。)」
可愛いものが大好きなノアは、出逢った少女と自身の相棒のそんな光景に頬を緩めるのであった。
▼リリスの家(学生時:首都:一人暮らし)にて。
ほどなくして電車を降りて、私たちは彼女の家に到着した。
リリス「ごめんね、一人暮らしだから狭いんだけど。」
ノア「おぉぉ・・・なんという機密性・・・。風の音すらしないなんて・・・。」
リリス「・・・そこに感動するのね?」
今まで感じたことのない心地よい圧迫感がそこにはあった。
リリス「風の音が聞こえてしまうようなお部屋だと、ここでは凍え死んでしまうわ」と、彼女は苦笑しながら靴を脱いで揃えている。
ノア「お・・・お邪魔しまーす・・・?」
ペコラ「きゅっ・・・!!」
部屋に入るなり、ペコラたちが何かに向かって一直線に駆けていく。
ノア「こ・・・こらっ!お願いだからここでは悪戯しないでよぉ~・・・!」
リリス「あらあら。何かお気に召すものがあった?ペコラちゃん。」
いつもの調子で悪戯されてはかなわないと焦って追いかけるノアと、たいして気にもしていない、といった様子でコートを脱ぎながらのんびりと後をついていくリリスの先、一部屋しかない綺麗に整頓された女の子らしい部屋の中で、ペコラ達はあちこちに飾られた“機巧人形”に群がって興味深そうにその周りを飛び跳ねている。
ノア「うわぁ・・・なぁにこれぇ・・・?“シアン”だ・・・。」
リリス「シアン・・・?西方だとそう呼ぶのかしら?それはこちらでは“犬”という動物よ。」
ノア「へぇ・・・。偽物・・・なんだよね?」
リリス「もちろん。でも、ほら・・・こうすれば・・・」
ノア「うわっ、動いた・・・!」
ペコラ「きゅっ・・・!?きゅきゅーーー!!」
急に動き始めた人形に驚いて、ペコラ達が一目散に逃げていく。
リリス「あら、驚かせちゃったかしら。大丈夫よ、怖くないわ。」
ノア「す・・・すごーい・・・。これが“機巧”・・・?まったく意志が感じられないのに、動いてる・・・。」
リリス「そう、現代科学の結晶ね。私達のような“心”は彼らには宿ってないわ。」
少し寂しそうに笑うリリスにノアは問う。
ノア「ここにある人形たち、もしかしてリリスさんが作ってるの?」
机の上に制作途中と思われるパーツがたくさん並んでいたからだ。
リリス「そうよ、私は“機巧学”が専門なの。それは学校の課題。
もっとこう、本物みたいに複雑な動きを実現したいのだけど、なかなか難しくて。」
ノア「・・・ふむ。本物みたいな・・・複雑な動き・・・。」
ノアは少し考え込んで、そして閃いた“それ”を実行に移す。
ノア「・・・我が呼び声に応じてこの“機”に宿れ、“風犬”。」
リリス「え・・・?」
ノアの魔法詠唱に呼応するかのように、リリスの“犬型の人形”にはほのかな光が集まり、そして、動き始める。それは、まるで本物の犬のように。
ノア「よかった、気に入った“シアン”? へぇ、それに入ってると暖かいの?」
犬型人形「わふ・・・っ!」
リリス「吠えた・・・私の・・・みーちゃんが・・・」
ノア「えへへ、動かすだけなら、機巧を妖精の“宿り木”にしちゃえばいいかなって。
“みーちゃん”って、この子の名前?」
リリス「え、あ、うん。これはお母様が作ってくれた人形で・・・。小さい頃からの宝物なの。」
ノア「げっ。それはまずい。シ・・・シアン・・・それはだめ。違うのにしよう。」
犬型人形「うぅぅぅ・・・」(※威嚇。嫌です、の意。)
ノア「えぇ・・・。話聞いてたでしょ~。リリスさんの宝物なんだから、だめだよぉ・・・。」
リリス「・・・なるほど。アストラルフレアは精神に深く作用するエネルギー体だから・・・
でも、彼らは人ではない、とすると大量生産は現実的ではないわね・・・
それなら魔導宝飾を使って伝導率を上げつつそこに類似する回路を構築できれば、
もしかして他属性でも応用が・・・魔導師が必要だけどそれだと研究費が嵩むわね・・・
この際一度実家に帰ってお父様を実験台に・・・・・・」
思いつきで召喚してしまった妖精と“宿り木”の交渉をするノアのうしろで、突如可愛らしかったはずの“天使”が独り言を漏らし始めて、その異様な声色と雰囲気を察知したノアはぎょっとしながら彼女の方へと振り返る。ぶつぶつと小難しいことを呟きながらおそろしいほどの好奇の視線を向ける彼女に、思わずシアン(宿り木)が後ずさったのもわかったが・・・
リリス「シアン、と言ったかしら・・・? それ、私の大事なお人形なんだけど・・・
気に入ったのなら、差し上げるわ。
お話から察するに、この地で過ごすには、妖精とて“防寒具”が必要、だものね・・・?
それに・・・あなた達のご主人にも、“今夜”は援助が必要でしょう・・・?
外は寒いわ・・・?だからね・・・?
代わりと言ってはなんだけど、ご協力、して頂けるわよね・・・?」
有無を言わさぬといったその狂気的な笑顔、そして突如として婉曲的に要求された“宿代”を前に、私たちは揃いも揃って冷や汗をかいて、そしてそのまま“天使のような顔をした悪魔”の三 日三晩の徹夜作業に付き合わされる羽目になるのだった。
▼ノアEP8-2 (2081年):『シンギュラリティ』
※リリス(20)→旧型機巧人形の量産体制確立
ノア(18)「えぇぇぇぇ!? き…っ、き…っ…貴族ぅぅぅぅ…!??」
リリス(20)「ふふん、そうなの。今日から私のことは、リリス・マイヤ“卿”と呼んで頂戴。」
相変わらず可愛らしい顔をした天使が、私の前で得意げな顔をして笑っている。
彼女と出逢ってから約4年、少し大人のお姉さんへと成長したリリス・マイヤはとうとう信じられないほどの偉業を達成した。
あの時、私の召喚したシアンから着想を得た彼女は、その後も研究に明け暮れて、とうとう人型の機巧人形に“心”を宿したのだ。もちろん行く当てもなくこの極寒の大地を彷徨っていた私はというと、そのまま彼女にお世話になる形でルームシェアをさせてもらっている。
当時14歳だった私に彼女は言った。
リリス「西地でどうだったかはともかく、少なくとも北地、
このグランドシャリオットという国であなたのような子供は雇ってもらえないし、
賃貸契約をするにしても、保護者の方の同意が必要になるわよ…?」
と。
この国はそれはもう華やかな大都会で、西地ファータ・クーラの大草原での暮らしのように、
困ったら木の実を取ってかじったり、お魚を釣ったり…といったことは不可能だ、ということ
が、あのあとすぐに判明したのだ。
ノア「暮らしていくだけで、こんなにも…お金がかかる……だと……?」
リリスの家にずっとお世話になるわけにもいかない、と“宿”の相談をした時の話だ。
彼女は部屋のパソコンをつけて、“不動産屋”…とやらのページを見せてくれたのだが、私が思っていたような“宿”のシステムとは全然違っていて、まともな暮らしをしようと思えば、誰もが毎月10万円近くのお金を払って生活している、というこの大都会の“常識”をこの時、初めて知ったのだ。
リリス「……そもそも、何しにきたの?まだ14歳、でしょ? ご両親は…?」
ノア「父さんと母さんは里にいるよぉ。私はその…ヘルメス様の神託で
里のみんなから盛大に送り出されてここにいるので……」
「手ぶらで帰るわけにはいかないんです…」と続けて、私が途方にくれていると、
リリス「神…託…?? ヘルメスって神話上の旅神のことよね。あちらの宗教か何かかしら…?
可愛い子には旅をさせろ、的な…?」
ノア「うん、まぁ、そういう感じ。
“北方にて、星の滅びを生む者あり。其は方舟にて彼の旅路へ我らを導け”
…これが、そのお告げ。」
リリス「………つまり、どういう意味?」
「私、文学的思考や芸術方面はちょっと苦手で…」と今までで一番難解なものを見るような表情を浮かべたリリスが、私の伝えた神託の詩文に頭をひねっている。
「(たしかに、彼女に詩文を読み解くセンスはなさそうだ…)」と三日三晩、シアンと共に小難しい理論の話を聞かされ続けながらも何とか“課題制作”のお手伝いを終えたばかりのノアは、ひっそりとだいぶ失礼な評価を彼女に対して下していた。
ノア「んー。要は、この国でなんか悪い事する人がいて、
神さまはそれをよしとしないから、解決してきて、ってことじゃないかなぁ?
方舟、っていうのが鍵みたいなんだけど、何のことかわからないんだよね。」
「とりあえず船旅してみたけど、何にも起こらなかったし…」と続けて、私はさらに途方にくれる。そう、結局私も、何をしたら問題を解決できるのか、というよりもまず、誰が“悪い事をしてしまう人”なのかすらわからない状況なのだ。
リリス「…そんなの、尚更危ないわね。」
「危ないことに首を突っ込んでいかないといけないってことでしょう?」と彼女が心配そうな顔をこちらへ向けている。
ノア「大丈夫だよ~!私これでも結構強いんだよ!なんたって妖精たちがいるからね!」
ペコラ「きゅっ!」 (※任せろ!…の意。)
リリス「うーん…。でも、いくら妖精さんでも、
別種の魔素を使う魔導師には手を焼くんじゃない?
私のお父様、神官なのだけれど…それはもう…強いわよ…?」
「神殿周りの獣たちがあっという間に凍らされてしまうんだから」と付け足して彼女は相変わらず心配そうな顔をしている。
ノア「うっ…。神殿、って冥脈の神殿だよね…。
水の女神様の大洪水のお話、おっかないんだよなぁ…。」
リリス「大洪水?」
ノア「うん。この東方大陸と、私達の西方大陸、元々はひとつだったらしいよ?
ある時、お怒りになった水の女神様があの海を作ったんだって。」
リリス「あぁ…そういえばそんなの、歴史の授業でやったわね…。
実用的でないお話は眠くなっちゃうから、正直あまり覚えてなくて…。」
ノア「わぁ…自国の神さまなのに…。可愛い顔して、罰当たり…。」
リリス「信仰の自由は否定しないけど、私は神さまなんて不確かなもの、信じてないもの。
それに比べて理論はいいわ。わかりやすくて。」
ノア「理論の方が難しいと思うんだけど…。」
リリス「そうかしら? まぁ、人には得手不得手があるから。
そんなことより、まずはおうちよ。その歳じゃ賃貸契約もできないと思うし…。」
ノア「そ…そうだった…!どうしよう、ペコちゃん…。」
ペコラ「きゅぅ…。」(※そんなこと言われてもぉ…の意。)
ノア「うーん…。とにかくお金を稼ぐ方法を見つけなきゃ…。」
リリス「……お金を稼ぐ、か。バイト、やってみる?
もちろん、あなたの歳じゃどこにも雇ってもらえないから、雇用主は私。
報酬は、そうね。このお部屋のルームシェア、ということでどうかしら?
鍵も渡すし、この家にあるものは全て自由に使ってくれてかまわないわ。」
ノア「おぉ…、バイト…!しかもそんなありがたい条件…!やります、やります、リリス様…!
掃除でも洗濯でも…!何でも…!」
リリス「ふふ…っ。そう? 何でも、ね…? 私は素敵な助手に恵まれたわ。
これで当面はお父様を実験台にしなくても済みそうね。」
ノア「………え?」
こうして私と、もちろん一緒に巻き込まれた妖精たちは彼女の通う大学に出入りするようになったのだけど、知れば知るほど、彼女はとてもすごい人だということがわかって、そのたびに目を丸くしたものだ。
本来当時の彼女の歳、要は16歳といえばまだ“大学”ではなく、“高校”に通う年齢らしいのだけど、彼女は頭がよすぎて飛び級で北地最高峰の大学に入学した1年生で、その専門分野である機巧学において、学内では右に出る物がいないくらいの天才だった。
本当に徹頭徹尾頭がよすぎて、しかも周囲の学生さんからすれば年下の彼女は、お友達も全然居なかったみたいだけど、その分何かと私の世話を焼いてくれて、気づけばもう四年、私は彼女のことを姉のように慕って、ずっと機巧開発の研究をお手伝いしてきた次第だ。
リリス「この子達に、私たちと違わぬ、素敵な“心”を宿したいの。
そうすれば、寂しい想いをする子供たちも、きっと減るもの。」
それが彼女の口癖だった。人型の機巧人形に“心”を…、そして彼らは人を助けて、私達は彼らを大切に扱って、そうやって私達が生んだ新しい生命とも心を交わすことができればきっと社会はもっと豊かになっていくはずだわ、と優しく笑いながら言う彼女の傍にいるうちに、私は「彼女の作っているこの子達は、きっとヘルメスさまの言う“方舟”なんじゃないかな」なんて思うようになって、嫉妬かなんだかしらないけれども彼女の邪魔をする人達が現れるたびに、ペコちゃんたちをけしかけて影でこっそり彼女を守るようになっていったわけなんだけど、そうやって二人三脚で研究してきた人型機巧人形に、ある日とうとう“疑似精神”が宿って、大喜びで「学会」というものに発表してみたら、今まで冷たかった人たちもたくさん協力してくれるようになって、私達のお人形は医療現場のセラピーで大活躍!
そうして彼女が名付けた“カガリビト”はどんどん社会に進出していって、20歳になった彼女はその功績を、なんとあのセントラルの将軍さまに認められて、ついに貴族になっちゃった、というわけなのだ。
ノア「す…すごぉぉぉぃ。今日はお祝いだー!…でも、貴族って、要は、何?」
リリス「ノアは相変わらずね。この国の特権階級なの。
元々は昔からの名門家系の人たちだけの特権なんだけど。
近代では“素敵な功績”を残した人が昇格できるようになったの。
そうね、わかりやすいところでいうと、領地をひとつもらえるわ。」
ノア「ほぉぉぉ…領地。つまり、西地でいう、里の長、みたいなもの?」
リリス「そういうこと。私がもらったのは首都の南側なの。
森が近いから、妖精さんたちも喜ぶんじゃないかしら。」
ノア「わぁぁ、やったね、ペコちゃん!」
ペコラ「きゅーーーー!」
リリス「さぁ、忙しくなるわよ。貴族の精神、それは“ノブレス・オブリージュ”。
身分の高い者はそれに応じた責任を果たさないといけないの。」
ノア「責任…かぁ。弱い人たちを守るってことだよね!リリスにぴったり…!
あ、リリス卿って呼んだ方がいいんだっけ?」
リリス「あはは、冗談だよ。ノアはいつもどおり、私の可愛い助手で居て頂戴。」
ノア「あはは、よかった!
いきなりかしこまらなきゃいけなくなったらどうしようかと思った!」
こうして私たちは狭いワンルームから、首都の南側の領地に建設された“彼女の新しい城”にお引越しをすることになったんだ。彼女はそこを“フォルスダッドコール”と名付けて…。
ノア「“にせものの心”…かぁ。もっとこう、いい言い回しにした方がよかったんじゃない?
“本物同然の心!”とか!」
リリス「ふふっ、いいのよ、これで。
人の心そのものを転写する研究は倫理的に禁忌とされてるわ。
ノアだって嫌でしょ? 自分とまったく同じ分身がいきなり目の前に現れたら。」
ノア「…うっ。それはちょっとホラー…。」
リリス「私たちの研究は、あくまで“人”の為にあるべきなの。
彼らに宿す“心”の中に、“負の感情”は必要ない。
ポジティヴはポジティヴを生むんだから。いつだって人のことを愛してくれる。
私はそんな優しい生命のママに、なりたいの。」
ノア「もうなってるじゃん!」
リリス「だめよ、まだまだ満足できないわ。
私は、もっと、もっと素敵な“心”を彼らに教えてあげるんだから。」
本当に、素敵な人。
彼女が“方舟”を生む者なら、多分今後もたくさんの“滅びを生む者”、要は悪い人が近づいてくるんだろう、と私はヘルメスさまの神託を独自に解釈していた。
ノア「…絶対、私が守ってみせる。誰にも邪魔はさせないんだから。」
リリス「ん?何か言った?」
ノア「んーん!何でもなーい!それより、新しいお城、探索していい!?
広ーーーーい!!」
リリス「あはは、これから嫌というほど動き回ることになるのに。」
こうして私は、この施設の研究のパトロンでもあるセントラルの将軍さまに感謝しながら、新しい我が家を妖精たちと隅々まで探索するのだった。
▼ノアEP8-3(2082年):『英雄の来訪』
リリス(21) アダム(22)北地来訪。VS ノア(19)始まる。
私は今、とても腐っている。
事の発端はヌルさまからの伝令だった。
ヌル「あれ?リリスいないの?じゃあ君でいいや。
あのさぁ、セントラルに派遣してもらったカガリビトなんだけど、
また、止まっちゃったんだよねぇ。今度は一気に6体。」
ノア「えぇ!?またですかぁ…?原因は…前と同じですか?」
ヌル「そ。この前、東地側の砂漠からアルタイルに向かって鳥獣の大群が押し寄せてさ。
駐留軍の手際がちょっと悪くて、
市民の避難誘導が間に合わなくて怪我人が出ちゃってね。
そしたら「もう僕が片づけてきます」ってアダムがねー、
ぶちきれてお得意の火の魔法大詠唱したんだよ。その瞬間にさ。トゥーンって。」
「みんな電源落っこちちゃった。おかげで今、仕事が増えて現場は大変そうだよ」とまるで他人事のように言うセントラルの偉大な将軍の言葉にノアは頭を抱えていた。
ノア「まぁ~た“アダム”ですかぁ!? もう…!いい加減にしてくださいよぉ。」
ヌル「いやぁ…まぁ、あれはしょうがないんじゃないかなぁ。」
ノア「まぁ、アルタイルの皆さんにお怪我がないならいいんですけど。
でも、どうしてかな…。獣さんたち、前までこんなことなかったのに…。」
ヌル「カガリビトが世に出回ってから、だよねぇ。」
ノア「なんですか。なんか文句あるんですか。リリス様の功績を認めたのはあなたでしょ!?」
ヌル「いや、実際かなり助かってるよ。おかげで仕事楽だしね。
ただ、彼らが魔素を喰ってる影響が生態系に変化を与えてるのは事実なんだから、
その…、仕方ないじゃないか。
もう、リリスのことになると人が変わるよねぇ、君はさぁ。」
「怖い怖い」とたいして怖そうでもない様子で、モニター越しの将軍が私に話を続ける。
ヌル「でさぁ、物は相談なんだけど~。」
ノア「はいはい、わかりましたよ。ほら、ペコちゃん、もっちーも!行って…!」
ペコラ「「きゅっ!」」(※合点承知!…の意。)
ヌル「あーーー、助かるーーーー! いやぁ、最初はびっくりしたけどさぁ。
いい整備班だよねぇ、その毛玉。
私の使ってたのも1体巻き込まれちゃってさ。困ってたんだよ。」
ノア「もう。ペコちゃんたちは小間使いじゃないんですよ。
それに、カガリビトももっと大事にしてあげてください。
アダムとやらにもよーーーく言っておいてくださいね…!?」
ヌル「わかってるって。では、今の話、リリスにも伝達よろしく頼んだよ。
真面目な話、原因究明と今後の対策はしてもらわないといけないんでね。」
そう言うと挨拶をする間もなく通話が切られて。
ノア「もう…勝手なんだから。」
私はぶつくさと文句を言いながらも、リリスに事の次第を伝達したのだった。
その話を聞いた彼女は少し難しい顔をして、それから「わかったわ、ありがとう」と私に言うとあとはいつもの調子だった、はずなんだけど……。
ノア「まさか、あの“アダム”がここに引っ越してくるなんて…聞いてなーーーい!!」
そう、その後すぐに、何がどうなってこうなったのか知らないが、あの「セントラルの英雄」が、なぜか北地へ飛ばされてきてしまった、という次第だった。
▼
彼との出逢いは最悪だった。北地でも獣たちは狂暴化している。
テルミナの森付近のこの施設でも、警備の軍人さんが手を焼いているのは知っていて、私も何か手伝えないかと彼らの元へ出向いた時、それは起こった。狼の群れが彼らを襲ったのだ。
ノア「まずい。ペコちゃん、行こう!」
ペコラ「きゅっ!!」
狼のボスと交渉をしようとして、私が群れへ近づこうとした時、私の目の前でけたたましい炎が彼らを焼いたのだ。
ノア「あ…あぁ……。」
死んでしまった…。彼らの魔素が星へと還っていく。
アダム(22)「君、危ないから下がって…」
ノア「何てことしてくれんのよ…!!!」
アダム「…え、えぇ…?」
困惑の表情で、彼は鬼の形相で詰め寄る私を見つめている。
ノア「殺すことないじゃない…!私が出れば彼らは森に帰ってくれたのに…!
それに、あんな大出力の炎使ったから、ほら!!またカガリビトが…!」
近くで仕事をしていたカガリビトが、無残にショートしてしまっている。
多分、このレベルの壊れ方だと、廃棄コースだ。
アダム「君の妖精が動物と交渉できるって話はリリス卿から聞いてるけど…。
全然間に合ってないじゃないか。怪我人だらけだよ。」
ノア「そ…それは…」
アダム「僕にとっては、“人命”が最優先だ。
君の言いたいこともわかるけど、人に害を成すなら、誰であろうと容赦はしないよ。
カガリビトだって、また作ればいいじゃないか。」
ノア「な…なによ…。この、人でなし…!!」
アダム「どう言われようとかまわない。僕は…、人が死ぬところは、もう見たくないからね。
……大丈夫ですか? 手当て、手伝います。」
救国の英雄とやらの眼力のあまりの迫力に私が言葉を失っていると、彼はひとつため息をもらして、そのまま軍人さんたちの方へ行ってしまって。
それからというもの、私は彼が大嫌いなのだ。
なのに…。
ノア「なんでなのよぉぉ、リリスぅぅぅぅ!!!」
あろうことか、もはや姉、と言ってもいいくらいには大切な私の天使、リリス・マイヤが…、
あの人でなしと交際を始めてしまったのだ…。
ノア「あいつだけはやめときなって…!!全然融通効かないし…、
人命人命って、カガリビトや獣たちへの扱い、超~~差別的だし…。
リリスとだって、元はといえば、しょっちゅうぶつかってた男じゃない…。」
リリス「そうねぇ。最初は私もそう思ったんだけどぉ。
話してみたらね、ちゃんと理由があったから。
素敵な人だなって、思ったのよ。」
ノア「なんでよりにもよってあんなのに引っかかっちゃうかなぁ…!!」
リリスが嬉しそうに頬を染めていたのを思い出して、私は盛大に机の上に突っ伏せる。
「友達少ないから…対等に話してくれる人に弱いのよね…リリスは…」とそのまま盛大な独りごとを吐いた後、私は座っていた椅子の背もたれに寄りかかって、今度は天を仰いでしまっていた。
※ストーリーはキャラクター順に繋がっています。