シアン・アウラ
Voice:犬乃伶
旧暦(高度文明期)
享年:???歳
属性:風属性
出身:西地(ファータ・クーラ)
新暦(人類滅亡後)
KEEPER=LIBRA/天秤座の守護者
役割:C-GE:機巧整備師
流離の残影 / 運命を伝令し幽魂
彼の現在のコードネームはKEEPER=LIBRA。
『天秤座』の名をその身に冠する整備型アンドロイド。
・・・ではあるのだが、この数十年、彼が整備をしている姿を見た者は誰一人居ない。
彼が手を加えたであろう機巧や乗り物は理論上壊れている状態にも関わらず、なぜだか動作を続けてしまっている。どうやら風の魔素の力を用いているようだが、他の者には到底できぬ芸当、得体の知れぬかの御業を、人形たちは「怪奇現象」として若干畏れている節がある。彼に修理された機器からは稀に不思議な声が聞こえる、との噂も・・・。
といっても、本人自体はどんな時でも飄々として親しみやすい性格で、仲間たちからはなんだかんだと頼りにされている。
そんな彼のオリジナルの魂の名は、シアン・アウラ。
強き運命を持つ者の前に蜃気楼のように現れるこの不思議な青年の正体は果たして・・・。
キャラクターボイス
『僕、ちょっと協力したくなっちゃった』
『どうか彼女の旅路に幸あらんことを。
この旅神の加護が、君の力になりますように。』
STORY
▼EP9:『シアン・アウラの軌跡』
西方、ファータ・クーラの広き遊庭にて、彼は太古の昔より、たくさんの旅人との一期一会を果たしてきた。
100以上の名を持ち、時に姿形すら器用に変化させる彼は、その時々の役割を終えるといつのまにやら立ち消えて、気付けばまた、別の場所で穏やかに目を覚ますのだという。長きに渡り、様々な“運命”へと寄り添い続けたかの旅人は、まさに“気まぐれな風”そのものである。
彼の本当の姿を知る者は誰一人いないというが、
果たしてその正体や、吉兆か、凶兆か――。
▼シアン 独立エピソード『イヴの冒険』
シアン「僕は・・・誰・・・・・・? あぁ、“運命”が呼んでいる・・・。行かなくちゃ。」
目を開けると、暖かい日差しが花たちと戯れ、心地よい風が草原の草木を揺らしている。
シアン「・・・ふわぁ、いい天気。このままもう一回寝てしまいたいなぁ。」
いいお昼寝ができそうだ、とその場にもう一度寝っ転がろうとしたその時、その“運命”は僕の目の前に慌ただしく現れた。
イヴ(7)「いやぁぁぁぁ。何なの、これぇぇぇぇ・・・」(※盛大な泣きべそ)
シアン「・・・・・・。」
一人の少女がエンテの幼鳥達に追いかけ回されている。あぁ、ちなみにエンテというのは鳥型の妖精だ。親と認識した者にひたすら付いていく性質がある。ちなみにそれ以外に害はない。
シアン「・・・平和だなぁ。」
イヴ「・・・! お兄さん、助けてぇぇぇ・・・!」
シアン「え・・・。えぇ・・・?」(※のんびりと面倒くさそうな顔)
助けを求めながら一目散にこちらに駆けてきた金髪の少女が僕の目の前で派手に転ぶ。
イヴ「いったぁーい・・・!」
シアン「あ、急に止まると危な・・・」
イヴ「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・!」
彼女の速度に合わせて後を駆けていたエンテ達が次々に彼女に激突し、たちまち幼鳥の山が少女の上にできあがるまでの一部始終を、僕はただただのんびりと眺めていた。
▼
イヴ「・・・もぅ。お兄さん、ひどい。」
シアン「いやぁ、そんなこと言われてもなぁ・・・。」
僕の隣に膝を抱えて落ち着いた金髪の少女の周りには、相変わらずたくさんの幼鳥たちがちょこまかと動き回っていて、非常に愉快なことになっている。
聞けば、彼女は道中で一匹のはぐれ幼鳥を見つけて愛でていたらしい
シアン「そっかぁ、はぐれエンテの幼鳥は不用意に触ったらだめなんだよね。」
「こうなるからさ」と付け足して、僕が大量のエンテたちを指差すと、彼らに親だと認識されてしまった少女は「うっ・・・」と声を漏らして途方に暮れた様子で項垂れてしまった。
イヴ「この子達のお母さんは、どこに行っちゃったのかな・・・?」
シアン「さぁねぇ。他の妖精の悪戯で引き離されちゃったのかもしれないし、
野生生物にやられちゃったかもしれないし・・・」
イヴ「えぇぇ!? それじゃぁこの子たちはどうなるの!?」
シアン「親からはぐれた幼鳥たちは、そのまま“アストラルに還る”運命だねぇ。」
イヴ「死んじゃうってこと? そんなの、可哀想だよ・・・。」
シアン「自然の摂理は儚いものだよ。」
イヴ「イヴ、そんなの認めない・・・! よし、お母さん探そう・・・!」
「この子イヴっていうのか」などとのんきに考えていた僕だったが、次の瞬間、彼女に勢いよく腕を掴まれて、そして・・・
イヴ「どこ探せばいい・・・!? お兄さん、この土地の人なんでしょ!手伝って!」
シアン「・・・え・・・えぇぇぇ・・・。」
懇願の瞳で僕を見つめる小さな少女と、さらに小さな幼鳥の大群を前に、僕は断るという選択肢を絶たれて彼女に協力することになったんだ。
▼
イヴ「見つからないなぁ・・・。うーん・・・。」
シアン「・・・・・・そりゃ、まぁ、広いしねぇ。」
僕は今、金髪の少女、イヴに付き合ってエンテの生息地を歩き回っている。ちょっと危険な場所なんだけど、「どうしても行く」と聞かないものだから仕方なく折れた形だ。
シアン「・・・それにしては、楽なんだよなぁ。」
イヴ「・・・?」
僕の独り言に目の前の幼い少女はきょとんと首を傾げている。
シアン「いや、こっちの話。それよりさっさと探しちゃおう?
さっきもさんざん言ったけど、ここ、割と危険で・・・」
彼女へ話しかけている途中で耳をつんざく大きな咆哮が聞こえたと思えば、すぐに空から地へと衝撃が走って、僕とイヴはたちまち砂煙に包まれる。
イヴ「げっほげほ・・・いやぁぁ・・・今度はなぁにーー!?煙たぁぁぁぃ!!」
シアン「あーあー、言わんこっちゃない・・・。」
言ってみれば、エンテは妖精の中では弱き者だ。
そしてこのエリアには“空を駆ける王”がいる・・・。
イヴ「な・・・っ・・・な・・・っ・・・」
シアン「お出ましだねぇ。“ドラゴン”の。」
イヴ「ドラゴンって、えぇぇぇ!? 御伽噺じゃないんだからぁぁ・・・!!?」
顔を見合わせた僕らは、苦笑いを交わすと一目散に来た道を駆け出した。
▼
イヴ「も・・・もうだめだ・・・。イヴここで死ぬんだ・・・。
パパ、ごめんなさい。ママ、愛してる・・・。
生まれ変わったらまた絶対二人の子供になって戻ってくるよぉぉ・・・」
シアン「えぇ・・・。諦めるの早くない・・・? 縁起でもないこと言わないでよ・・・。」
結局“空の王”に逃げ足で勝てるわけもなく、なんなく追い詰められた僕たちは絶体絶命の窮地に陥ってしまっていた。金髪の少女など、もう諦めて北方神殿の祈りの呪文を永遠と唱えている。
シアン「もう・・・。仕方ないなぁ。」
僕が彼女の一歩前へ出ようとしたその時、それは空の王の翼を貫いた。
まぁ、“彼”にとってはかすり傷だ。王の鱗はとても硬いのだから・・・。
エルデ(39)「はぁぁぁ・・・?ありえないんだけどぉぉぉ・・・?!何よあれぇぇぇ!?」
オッド(24)「・・・ドラゴン、ですよね。僕、初めて見ました。ちょっと感動してます。」
エルデ「感動してないで手伝いなさいよぉぉぉぉ!?」
イヴ「・・・・・・エルさん?オッド先生も・・・。」
シアン「・・・知り合い?」
▼
主にセントラル軍のエリート狙撃手、エルデ・シン大佐の大奮闘によって、僕達は何とか“空の王”の追跡から逃れることに成功した。
随分と長時間、主にシンさんだけが戦いながら全員で草原を走り回った結果、すっかりこの西地特有の“夜の太陽”が覗き始めてしまったわけで、東方大陸のように辺りが真っ暗闇に包まれるわけではないものの、妖精たちの“神隠し”に気をつけなければいけない時間帯ということもあり、僕達はとある湖のほとりで野営をすることとなった。
ちなみに、どうやら軍医さんであるらしい、知的な眼鏡が印象的なこの長身の男性、オッド君と共に、僕は今、“釣り”をさせられている。
エルデ「あんたほんと馬鹿も大概にしなさいよね!!!
あたしが駆けつけなかったら今頃西地の藻屑になってたのわかってんの!?
だいたいあんたはいつも、いつも・・・!!!
後先考えずにすーぐに突っ走ってrykjlへあr」
イヴ「ひぃん・・・ごめんなさぁぁぃ・・・・・・」(泣)
後ろではシン大佐によるものすごい迫力の“お説教”が繰り広げられ続けている為、僕たち男性陣とエンテの幼鳥たちはというと、皆一様にひたすら美しい夜の水面を眺めて、気配を殺している最中だ。1匹だけ、彼らについてきていたのであろうペコラが巻き込まれて、叱られ続ける少女の頭の上で一緒になってしょんぼりしているのが何ともいたたまれない。
オッド「なんというか・・・巻き込んでしまいましてすみません・・・。
その・・・、道案内、とても助かりました。」
やがて真面目そうな青年が、後ろの鬼を刺激しないよう、かなりの小声で僕に話し始める。
シアン「ん~? いいよいいよ~。こういう一期一会はこの土地の醍醐味だしね~。」
オッド「シアンさんはこの土地の方なんですか?」
シアン「うん。もう随分長い間、各地を転々と旅してるよ。」
オッド「どうりでいろいろ詳しいわけですね。ドラゴンにも動じてなかったみたいですし。」
シアン「そういう君だって、逃げ回ってる間ずっとのんきに動画撮影してたじゃない。」
オッド「いや、それはその・・・帰ったら友人に見せてやりたくて・・・つ・・つい。」
シアン「あはは。まぁ、空の王だもんね。」
オッド「いやぁ・・・かっこよかった・・・。」
かの王の凜々しき姿を思い出してか、また満足げな笑みを浮かべて物思いに耽る彼に、僕はふと、不思議に思っていたことを聞いてみる。
シアン「君も、イヴも、どうして王と戦おうとしなかったんだい?
オッド君がシンさんの回復に徹してたんだなっていうのはわかるんだけど、
二人とも、魔法、かなり使えるよね?」
オッド「・・・わかるんですか?」
シアン「うん。妖精たちがね、はしゃいでたから。アストラルに愛された人・・・
まぁ、つまり魔力の高い人にしか興味を示さないからね、彼らは。」
そう彼に言葉を返して、僕は鬼の形相の大佐に尚も叱られ続ける“小さな母親”を、遠目から心配そうに見守っておろおろしているエンテの幼鳥たちをおもむろに指さす。
オッド「なるほど、それで・・・。
・・・シアンさんは、“カガリビト”って知ってますか?」
シアン「なんだい?それ。」
オッド「あ、やっぱりそうですよね。
東方大陸で11年前に大量稼働し始めた“心を持つ機巧人形”の総称です。
おかげで“東方大陸の人々の生活”はとても豊かなものになりましたけど、
大きな問題がひとつ残っている状態でして・・・。」
シアン「あぁ。アストラルフレアの枯渇・・・かな?」
オッド「そうです。もしかして、こちらにも影響が・・・?」
シアン「うん。妖精達の数が減り続けてる。時期も、一致するね。」
オッド「そっか・・・。彼らは“魔素”そのものだから・・・」
「そりゃ消えちゃいますよね・・・」と彼が残念そうに地面に視線を落とす。
シアン「なるほどねぇ。君やイヴの力は、大きすぎるってことか。
機巧の動力を優先する為に人側の力を制限とは、
なんというか、僕には少し本末転倒に思えるよ。」
オッド「“魔素喰らい”と呼ばれているのは本当に一部の人間だけですから。
多くの人達にとっては何の影響もない施策なんですよ。
実際、僕やイヴちゃんが本気で魔法なんか発動しちゃった日には、
周辺一帯の“カガリビト”が故障する大惨事になるのも事実なので、
制限を強いられるのも、まぁ、仕方ないのかなって。」
「二人でよく慰め合ってるんですよ」と明るく笑う彼から、不満や恨みといった機微は一切感じられない。
シアン「・・・強いね。二人とも。」
オッド「はは、褒められたのはこれで二人目です。嬉しいな。
一人目はね、東方大陸の“英雄”です。イヴちゃんのお父さん、なんですけど。」
シアン「あぁ、それってもしかして、アダム・ブレイズ?」
オッド「ご存じでしたか。こちらでも有名とは、やはりすごいですね。アダムさん。
彼は大きな戦争を経験していますから“戦う為の大きな力”はもう必要ないって。
僕もそう思うんです。彼の理念は僕の理念でもあって。
だからちゃんと制御して、“人を癒やす力”だけで生きていこうって。決めてるんです。」
シアン「それであの時もずっと回復に徹してたのか。器用だねぇ。」
オッド「アダムさんの教え方が巧いんですよ。
ただ、イヴちゃんはまだ小さいですし、僕なんかよりもずっと力が強くて、
なかなか制御がうまくいかないのが実情です。
日常生活に必要な力ですら一歩間違えれば大惨事なので今は魔法の特訓中で、
失敗すると制限装置からの身体への負担も大きいから、
アダムさんや僕の居ないところでは一切の魔法使用が禁止されています。」
シアン「・・・なるほどねぇ。それで君が彼女の“主治医”なわけだ?」
オッド「そういうことです。同類の先輩として相談に乗れることはたくさんありますから。」
シアン「仲間がいるのは、心強いね。」
話が一段落して穏やかな沈黙が流れたところで、背後で情けない声が聞こえて、僕達はまったく釣れない釣り竿を持ったまま、顔だけ後ろへ振り返る。
イヴ「ふぇぇん・・・。疲れたぁ・・・。」
シアン「お説教、終わったの~?」
イヴ「うん、終わった・・・。エルさん、すっごい怖かった・・・。」
オッド「あはは、ヌル将軍とはまた違った意味で怖いよねぇ、大佐は。」
イヴ「ヌルにはパパでも勝てないもん。」
「絶対怒られたくない」と続けて、少女はさらに眉間に皺を寄せている。
ヌルといえば、セントラルの女将軍であることは周知の事実だ。
シアン「東方大陸は、女性が強いんだねぇ。」
オッド「そうですね・・・。イヴちゃんのお母さんもなかなかの“黒さ”です・・・。」
イヴ「・・・? ママは優しいよ?」
きょとんと首を傾げる少女に反して、オッド君の方はかなり難しい顔をしているのがおかしくて、僕は思わず笑いを零す。
オッド「で、大佐はどこに?」
イヴ「狩りしてくるって。むしゃくしゃしたからお肉食べたいらしくて。」
オッド「わーぉ・・・頼もしい・・・。僕らも1匹くらい釣らないと殺されますね、これは・・・。」
シアン「それ、僕も巻き込まれるやつ?」
イヴ「イヴもやる・・・!面白そう!」
大佐に怒られたくない僕たちの心情など気にも留めぬ様子で、金髪の少女はオッドの作った予備の釣り竿を持ってはしゃいでいる。
シアン「だいたいの事情は今オッド君から聞いたんだけどさ、
君たちここに何しにきたの?魔法、使っちゃだめなんでしょ?」
イヴ「うっ・・・それは・・・」
オッド「あはは・・・。アダムさんと喧嘩したんだよねぇ。
あんな焦ったアダムさん、僕初めて見たよ。」
イヴ「だってぇ・・・」
シアン「ふーん・・・? つまりイヴの家出ってこと?」
オッド「そうなります。」
イヴ「だってパパひどいんだよ?
ノアお姉ちゃんには近づいちゃいけない、とか言うんだもん。」
シアン「・・・ノア?」
イヴ「うん!ママの“疑似精神”作りに協力してくれてる召喚士さん!
いつも妖精さん、いっぱいつれてるの!ほら、この子も!」
ぴょこ・・・っと彼女の頭の上で跳ねるペコラが僕に向かって存在を主張している。
シアン「あぁ・・・なるほど。リリスの・・・。じゃあ、君が・・・」
イヴ「ん?」
シアン「いや、こっちの話。
まぁ、そういうことなら、君のお父さんとしてはたしかに心配だろうね。
いくら契約済とはいっても、妖精は悪戯好きだから。」
イヴ「もっちーはイヴに悪戯したりしないもん。」
もっちー(ペコラ)「きゅっ!」(※そうだそうだ!の意。)
オッド「まぁ、イヴちゃんは懐かれてるからいいものの、
アダムさんはさんざん被害を被ってきてますからねぇ・・・。」
イヴの頭上に居座るペコラにオッドが何ともいえない複雑な表情を向けている。
もっちー(ペコラ)「きゅっ・・・きゅっきゅぅ・・・」(※そ、それは・・・まぁ・・・の意。)
イヴ「パパとノアお姉ちゃん、なんであんなに仲悪いんだろ・・・。」
普段は二人とも優しいのに・・・と、どうにも解せない様子で口を尖らせる少女が項垂れる。
シアン「・・・僕のせいだな、それ。」(※ヘルメスの神託=“星の滅亡を生む者”)
イヴ「え?なんて?」
シアン「あ、いや、何でもないよ。
それで、わざわざファータ・クーラまで来ちゃったの?」
イヴ「うん。契約者のノアお姉ちゃんとイヴでは危険度が違う、ってパパがうるさいから。
じゃあ、イヴも契約者になればもっちーと遊んでもいいよね・・・!って・・・・・・
それに・・・妖精さんの力を借りられれば、イヴだって・・・」
シアン&オッド「「・・・わぁ。」」
イヴ「な・・・なによぉ。そんな目で見ないでよぉぉ。」
エルデ「ばっかじゃないのほんと。妖精との契約なんてそんな簡単にできるわけないでしょ。
おかげでこっちは大迷惑よ。」
親子げんかの顛末を聞いた僕たちが思わず苦笑いをしているところへ、狩りを終えた頼もしい大佐が帰ってきて、間髪なく少女へ容赦のない一言を浴びせながら、戦利品であろうウサギを2匹その場へ置いて「せっかくの休暇だったのに・・・」などとぶつくさ言いながら装備を片付けている。
オッド「まぁまぁ・・・。いいじゃないですか。これもきっといい勉強になると僕は思うよ。
ね、イヴちゃん。」
イヴ「オッドせんせぇぇぇ~・・・」
エルデ「甘やかさない・・・!もう・・・。あんな焦ったアダム、初めて見たわよほんと。
あの救国の英雄が“休暇中の軍人に職権乱用の上官命令”なんて、
まじで前代未聞なんだからね。帰ったらちゃんと謝りなさいよ。」
オッド「あはは・・・。たしかに、普段は絶対“命令”しないですもんね。アダムさん。」
エルデ「そうよ。あいつに何か言われて飄々としてるのなんてあのクソ蛇くらいのもんで、
ちゃんと立場気にしてんのよ、アダムは。なのに娘のあんたときたら・・・」
イヴ「うぅ・・・」
エルデ「そんなんだから“役立たずのご令嬢”とか言われんのよ。
妖精と戯れてる暇あるなら魔法の訓練もっと真面目に・・・」
オッド「大佐、言い過ぎです。」
しゅん、と、ここまでずっと破天荒だった金髪の少女が落ち込んでしまっている。
エルデ「・・・あー。悪かったわよ。ちょっと頭冷やしてくる。」
バツの悪そうな顔でエルデが僕たちから少し離れて手慣れた様子で黙々と獲物のうさぎを捌きはじめて、残されたこちらには重苦しい沈黙が流れていた。
役立たず、か。と僕は彼女の厳しい言葉に考えを巡らせる。
ここまで底抜けに明るかった少女のこの落ち込みようを見ていれば、箱入り娘が家を飛び出してまで人外境と呼ばれる西地に来てしまった心情は何となく察せられるというものだ。
妖精との契約は風の魔素そのものとの契約で、自身の魔力を行使しなくても、意志を持った風が力になってくれる、ということなのだから。
シアン「(もしかしたら・・・って、思うよね。そりゃ。)」
シアン「・・・・・・。あのさ。」
沈黙を破って少女に声をかけた僕に、相変わらず落ち込んだままの様子のイヴが「なぁに?」と言った顔を向けている。
シアン「契約、できるかもよ。」
イヴ「・・・え?」
シアン「要は君は“お父さんの役に立ちたかった”ってことでしょ?
僕、ちょっと協力したくなっちゃった。
1箇所だけ心当たりがあるんだけど、どうする?」
イヴ「・・・ほんと? イヴに力を貸してくれる子、いるの?」
シアン「もちろん。ただ、君が“そこ”へ辿り着けるのなら、だけど。」
オッド「危険、ってことですか? イヴちゃん・・・それは・・・」
イヴ「・・・イヴ、行く。」
オッド「いや、でも・・・!」
エルデ「いーんじゃない?」
「どーせ釣れてないんでしょ。食べなさいよ。」と呆れた様子で焼きウサギを持ってきてくれた大佐の一言に、イヴが目を丸くしている。
エルデ「実利があるなら話は別でしょ。
危険なんてこのあたしが蹴散らしてやるから、契約してきなさいよ。」
イヴ「エルさん・・・。」
エルデ「あんたの為じゃないんだからね・・・!
アダムが心労で倒れでもしたら、全国民が困るのよ!いい?わかった?!」
シアン「・・・素直じゃないなぁ。」
エルデ「何か言った?」
シアン「・・・いえ、何も。」
オッド「あーあー・・・。もう・・・。わかりましたよ。
イヴちゃんにもしものことがあったら僕がアダムさんに焼かれてしまいます。」
イヴ「エルさん、オッド先生も・・・ありがとう・・・!イヴ、頑張る・・・!」
“運命の子”―、きっと彼女は、遠い未来でこの星を救うだろう。
僕はこの時、たしかにそう、感じていたんだ。
どうか、彼女の旅路に幸あらんことを。この“旅神”の加護が、君の力になりますように。
▼後日譚―。 (視点:エルデ)
エルデ「まさか、“旅神”・・・とはねぇ・・・。」
シアンという不思議な青年に導かれて、妖精郷を横断したあたし達はそれはもういろいろと大変な目にあったのだけど。
ようやく辿り着いた西の最果ての大きな石城でイヴを待っていたのは、“旅神”だった。
オッド「空の王に・・・湖畔のヌシ・・・エンテのお母さんは不死鳥・・・
最後は・・・風の神・・・、あぁ、なんというロマン・・・。」
あたしと同じく、この現実離れした“旅行”の道連れとなった部下はというと、いたく満足げな様子で記録映像を何度も見直してはにやにやしている。正直ちょっと気持ち悪い。
エルデ「あたし、あんなでかい焼鮭、初めて見たわ・・・。」
オッド「いやぁ、水魔法よりかなり魔素を喰うので
普段は火属性魔法は使わないようにしてたんですけどね・・・!
あれはさすがに、ちょっと本気出すところかな、と思って。
アダムさんに制御の仕方教えておいてもらったのが役に立ちました・・・!
美味しく焼けて、本~~当によかったです。」
エルデ「・・・救国の英雄のありがたい教えが、まさかオーブンと冷凍庫に転用されるとは、
アダムが聞いたらどんな顔するかしら・・・ほんと・・・。」
オッド「あ、いや、それは黙ってていただけると・・・っ!」
イヴ「エルさん、見てみて~!」
無邪気にこちらに走ってきた少女がノア・スピリットの謎の毛玉を風で翻弄して戯れている。
エルデ「旅神の加護をそんなことに使うな・・・!!」
イヴ「えへへ~。だって、もっちーが喜ぶから・・・」
もっちー「きゅっ!!」
エルデ「・・・はぁ。」
生まれ持った力が大きすぎてまったく魔力制御が効かなかったアダムの娘に神が与えたのは、“妖精”などではなく、魔力そのものの制御能力、だったわけで・・・。
エルデ「アダムが泣いて喜ぶわね。みものだわ。」
イヴ「パパ、喜んでくれるかなぁ。」
オッド「膝から崩れ落ちて泣きむせぶんじゃないですかね。」
エルデ「その前に1回小言が挟まると思うけどね。今頃気が気じゃないでしょうし。」
イヴ「うっ・・・。パパ、怒ったらめちゃくちゃ怖いんだよぉぉ・・・。」
オッド「それはまぁ、仕方ないですね。立派な家出ですし。」
イヴ「そんなぁ・・・。先生は味方だと思ってたのにぃ・・・。
でも、シアンお兄ちゃん、ほんとどこ行っちゃったんだろう。
ちゃんとお別れ言いたかったんだけどなぁ。」
エルデ「まぁ、西地の旅人なんてそんなもんじゃないの?
石城前で挨拶はしてるわけだし。ほら、船来たわよ。やっと帰れる・・・。」
シアン「さよなら、“運命の子”―。素敵な一期一会をありがとう。」
楽しそうに船へと駆けていく少女たちを、少し遠くの小高い石段の上から見下ろして優しく微笑む青年の姿が、やがて穏やかな風に溶けて消えていく。
▼後日談2
ノア「あ、シアンやっと帰ってきた。どこ行ってたのー?」
犬型機巧人形「わふっ・・・!」(※秘密!・・・の意。)
▼後日談3
アダム「イヴ~~~~~~~!(泣)
私が悪かった・・・!怪我は・・・!?体調は・・・!???」
イヴ「えへへ。大丈夫。それよりパパ、ほら、これ見て!」(※風魔法披露)
アダム「・・・エル・・・オッド君・・・、君たち、何か欲しい物は・・・?」
(※膝から崩れ落ちてさらに泣きながら特別任務報酬の話をし始めるアダム。)
オッド「僕の勝ちですね。」
エルデ「えぇ・・・絶対先に怒ると思ったのに・・・。」
▼後日談4
エルデ「あ~~、最高~~~~♡」
(※↑の報酬でアダムに超高級な銃を買ってもらってご満悦のエルデ。)
▼後日談5(映像通信 北地⇔セントラル)
オッド「見てくれよ、これ・・・!! ドラゴン・・・湖畔のヌシ・・・フェニックス・・・
そして、アダムさんからの報酬・・・!」(※新しい制御装置。アダム特別宝飾付。)
アベル「オッド、おまえ、ずっりぃぞ・・・!!
俺もアダムさんとイヴちゃんに会゛い゛た゛い゛~~~~~~~!!」(泣)
※ストーリーはキャラクター順に繋がっています。