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ノア・スピリット


Voice:あしゅのお歌


旧暦(高度文明期)

享年:38歳
属性:風属性
出身:西地(ファータ・クーラ)

新暦(人類滅亡後)

KEEPER=ARIES/牡羊座の守護者
役割:C-GE:機巧監査官


神託の巫女 / 運命さだめ叛逆そむき幽妹ファタ・スール

彼女の現在のコードネームはKEEPER=ARIES。
『牡羊座』の名をその身に冠する整備型アンドロイド。
常に謎の白玉を大量に引き連れており、彼らの力によってある程度の自衛戦闘も実は可能な特殊躯体である。普段は天真爛漫な性格で、誰とでもすぐに打ち解ける明るい少女だが、人形社会のトップを務めるSIR=GEMINIとだけは反りが合わないようで、顔を合わすたびに喧嘩を仕掛けては、さらっとあしらわれている。
“ロールレス”の処遇については中立的立場を貫き、あまりその話題には触れないようにしているようだ。どうやら、難しいことを考えるのが苦手なようである。

そんな彼女のオリジナルの魂の名は、ノア・スピリット。
今日は、主人公イヴと共に人類滅亡史の終幕をギリギリまで見届けたとされる“神託の巫女”の軌跡を追ってみよう。


キャラクターボイス


『騙されないんだからね。』



『すごーい・・・。これが“機巧”・・・?』



『ん~? 要は、この国でなんか悪いことする人がいて~。
神様はそれをよしとしないから、解決してきてってことじゃないかなぁ?』


   

STORY

◀ 初めから読む

◀ 『シアン・アウラの軌跡』

▼ノアEP8-4 (2096年):終末のアストラル① -『終末ノ病』

リリス(36) アダム(37) ノア(34) イヴ(12) アベル(25)

― あれから15年の月日が流れて。
私達はすっかりいい歳の大人になっていた。
結局リリスはあれよあれよという間にあの人でなしと結婚してしまったのだけど、最初は「自分が正しい」といわんばかりに終始偉そうだったあの男も、リリスの尻に敷かれるようになって、私に対しても、多少は折れてくれるようになったので、「まぁ…百歩譲って許してやるか…」と私は渋々“姉”の結婚を認めたのだった。
その後はすぐに可愛い女の子も生まれて、リリスがとても幸せそうだったから。

私も彼女の娘、イヴをとっても可愛がって、なついてくれる少女と一緒にあの男にペコちゃん たちをけしかけたりして、それなりに楽しい時間を過ごして…、気づけば34歳になっていた。

時刻は早朝。
昨日は夜遅くまで残業をしていたのだけれども、手元にはまだ仕事が残っている。
私は「さぁ、今日も頑張るか~」と眠い目をこすりながら、何気なしにテレビをつける。

「……原因不明の急死はこれで112件目の事例となるそうです。 現在、医療現場は混乱を極めており、政府の対応が待たれるばかりです。」

つけて早々、不穏なニュースを読み上げるニュースキャスターの声が聞こえて、私は顔を曇らせる。そう、ここ最近、急に“謎の病気”が流行り始めているのだ。共通している症状として、少しおかしなことを口走り始めたと思ったら、ある日唐突に倒れてしまったり、時には突然死してしまったりするらしい。神官クラスの回復魔法でもあまり効果がないらしく、どんどん記憶が欠けて、最後は一様に、皆、死に至る、とのことだ。

ノア「わぁ…今度は政治家さん…かぁ。最近ほんと多いなぁ。」

気を付けないとな、と私は気を引き締める。まぁ、気を付けろ、と言われても、原因がわからないのだからどうしろという話ではあるんだけれど…。

ノア「とりあえず、外ではマスク…!そして、栄養…!ぺこちゃん、そこのジャム取って!」

ペコラ「きゅっ!」

器用にその丸い身体の上にジャムの小瓶を乗せて、私の使役する妖精が朝食の準備を手伝ってくれている。

アダムの北地来訪を境に、“疑似精神フォルスダッドコール”の研究は急激な進展を見せていた。
当時問題になった高火力魔法使用時の魔素干渉問題も今ではだいぶ改善されて、よっぽど大きな力を使わない限りはカガリビトが急に壊れてしまうこともなくなりつつある。
イヴやオッド先生、そして最大火力時のアダム、といったいわゆる“魔素喰らい”級の異常な魔力を扱える人以外には、特に不便がない世の中になったのだ。

それに、戦争終結から時間が経つにつれて、世の中はどんどん平和になっていき、カガリビトの台頭によって人々の生活もとても豊かなものへと変わっていって。
最近では一部の職業の人以外は、あまり長時間働かなくても社会が回るようになっている。
リリスの夢は実現しつつあるのだ。

リリス ― 彼らは人を助けて、私達は彼らを大切に扱って、
そうやって私達が生んだ新しい生命とも心を交わすことができれば
きっと社会はもっと豊かになっていくはずだわ

若かりし頃の彼女の言葉が思い出されて、私は懐かしくなって、ふふっ、とひとり笑みを零しながら朝食のトーストを頬ばるのだった。

ノア「おはよう~。…ってどうしたの?深刻そうな顔して…。」

リリス「…ん? あぁ、ノア…。おはよう。よく眠れた?」

ノア「んー。ちょっと寝足りないけど、今のところ元気かな?どしたの?」

リリス「え?」

ノア「いや、眉間に皺がね…?」

リリス「あ、あはは。ちょっと考え事してて。大丈夫よ、何でもないわ。」

ノア「なぁに~? またアダムがなんかやらかした?」

リリス「…ねぇ、ノア。私のやってきたことって、だめだったのかな…。」

ノア「…はい? あ、もしかしてまだ“あのこと”気にしてるの?」

リリス「…う、うん。まぁ。」

あのこと、というのはイヴが生まれる前の話だ。
アストラルフレアを消費して動くカガリビトが大量稼働した当時、各地で予想外の生態系変化が起こって獣たちが狂暴化した影響で、防衛対応策が間に合わないまま、とある街の人々が大量に犠牲になってしまったことがある。

『インフィルマの悲劇』(人類歴2083)

世間一般ではこう呼ばれるものの、既にあまり覚えている人もいないであろうその惨劇は、南地フォーマルハウトの鉱山労働者街で起こったものだった。
かの街はエトナ大火山の麓にあって、元々山の猛獣たちの餌食になる者も多かったそうだが、それがさらに狂暴化してしまって、少人数編成だったセントラル駐留軍の防衛ラインを成す術もなく、獣たちの群れに突破されてしまったらしい。
なぜ、そんな悲劇が世間的には忘れ去られているかというと、戦争終結前、インフィルマは南地豪族たちの「奴隷」の街だったからで。
アダムが英雄となった後でそういった制度は撤廃されたものの、今さら故郷に帰ることもできない“元・奴隷”の人達はその地に残って仕事を続けることを選択し、アダムは彼らのそんな決定を尊重して、必要最低限の支援を約束する形で街の存続を認めたのだという。
もちろん、セントラルの人民居住区、アルタイルやデネブへの受け入れの話も提示された上での残留という選択だったようで、だからこそ、
「大人しくセントラルの、かの英雄の保護下に入ればよかったのに。」
それが世間からのインフィルマへの評価で、だからこそ、彼らが生態系変化の影響で大量に犠牲になった当時も「罰が当たった」などという者が大半だった、というわけだ。
要は、あまり誰も気に留めていない。最初の速報が流れた日こそ話題にはなったものの、数日もしないうちに、彼らの悲劇は忘れられていったのだ。

だが、アダムは当時、セントラルに緊急招集される形で現場での救出作業に当たっている。

北地へ来て約1年、リリスとも交際し始めて、この地に彼が落ち着き始めた当時の悲劇だ。
救出作業を終えて北地へ戻ってきた彼は、それまで見たことがない暗い表情を湛えて、憔悴していた。
彼は南地出身で、インフィルマには見知った顔も多かったからだ。

アダム「たったの…8人しか…救えなかった。何が英雄だ。僕は…無力だ。」

そう彼が悔しそうに漏らしたのを、私は実際に目撃している。

エルデが言っていた。彼は小さい頃から“奴隷”を“奴隷”と扱わない人だった、と。
そして、そんな彼の生い立ちを知り、心を痛めたのは、リリスだ。

当時の彼女の言葉が思い出される。

リリス「私が、殺したようなものね…。」

もちろん、その言葉は当時まだ恋人だったアダム本人によって、烈火のごとく否定されたわけなのだが、それ以降も彼女は時折、独りになると考え込んでしまう癖がついていることを、アダムは多分知らない。

今日の彼女も、きっとそうだ。

ノア「そろそろ忘れてもいいんじゃない?」
「アダムも望んでないでしょ、リリスがずっと気にしてるのなんて」
と続けて、私は彼女を励ましてみるが、相変わらず悲しそうな苦笑いが帰ってくるだけだった。
どうにも彼女は完璧主義者なのだ。ひとつ失敗すると、ずっと気にする癖がある。生態系の変化を戻すことはできないけれど、あれからは街の防衛策も一段と強化されて、セントラルによる方針転換で「魔素制限」も敷かれるようになったから、カガリビトへの動力干渉問題はもちろん、狂暴化した獣たちによる大きな被害も出ていない。
リリスも、アダムも、失敗は次に活かしてきたはずだ。

ノア「だめだなんて言わないでよ。リリスは方舟を生んでくれた。
ヘルメスさまも認めた、私達の女神さまなんだから。」

リリス「“北方にて、星の滅びを生む者あり。其は方舟にて彼の旅路へ我らを導け”
だったかしら。……ノア、私、時々、思うの。
星の滅びを生む者…、それこそが私だったんじゃないかなって。」

ノア「は?ほんと、どうしたの?そんなわけないでしょ?
こんなにも世界は豊かになってるのに…!」

リリス「…今日ね、ヌルさまから連絡があったの。最近流行り出した疫病について。
まだ公表されていないけど、原因は…
世界各地での“アストラルフレア”の、急激な枯渇…だそうよ。」

ノア「………え?」

私は今、セントラル側からの招集で、「終末ノ病」に関する緊急会議に参加している。

ヌル「これが、急死者112名の解剖結果だ。
彼ら全員の体内からは、“魔力”、まぁ、要はアストラルフレアの痕跡が消えていたよ。」

オッド「だから、患者全員に錯乱や記憶の混濁が見られたのか…。」

ノア「どういうこと?」

アダム「アストラルフレアは、あらゆるものの精神へ大きく作用するエネルギー体だからだよ。
この星中に霧散するアストラルフレアは、
言ってみれば精神にとっての“空気”のようなものだ。
“空気”がなくなれば僕たちは死んでしまうだろう?
精神にも、それと同じ現象が起こる。
それがアストラルフレアというエネルギー体の力だ。
それに…。ヌル。…彼らには、話しても?」

ヌル「…あぁ、緊急事態だ。許可する。」

リリス「……?」

アダム「今からする話は、内密に願いたい。
始皇帝レヴィア・リインが封印したとされる、
セントラルの神、エデンについての真実だ。」

エルデ「つまり、あんたたちは揃いも揃ってエデンとかいう四大交差の禁域に侵入して…
そこのくそ蛇が死ねないのは、まぁ、知ってたんだけど…
アダムも…その神から違う力を授かってる…、ってことで、いいのね?」

ヌル「そういうこと。」

ここまで黙って話を聞いていたセントラルの大佐、エルデ・シンが確信に触れると、ヌルさまがそれに返事をして、彼女は「まさかの始皇帝かよ」と上官に向かって驚愕の視線を向けている。

アダム「機密事項だったもので、その…。いろいろと黙っていてすまなかった。」

オッド「事情は把握しました。ただ、今回の病とそれがどう関係あるのか、
僕にはまだ話が見えないのですが…」

アダム「僕が各地に残した平定の逸話は、皆、知ってるね?」

ノア「そりゃ、まぁ…。」

アダム「…僕は、あの時、“アストラルフレア”の源流に触れている。
見つけてしまったんだ。“篝火”を。」

リリス「篝…火…?」

オッド「セントラルに伝わる神話上の代物ですね。
たしか、アストラルフレアが生まれる泉には篝火が灯っていて、
それに触れた最初の人間は“善悪の知識”を得た代わりに、“永遠”を失った、と…」

ノア「あ、それ私も知ってる。
“南より火、“夢泉”を燃やせば、西より風、四方へ翠煙を誘う。”
西地、というか、この大地自体の創生神話のお話の一節だよ。
私の里は風を祀る民だから、特にこの一節は重要視されてて…
火が燃やした煙を運ぶ…
つまり、アストラルフレアを世界中に届けているのは我が主神だって、
皆、誇りに思って生活してるわ。」

ヌル「…二人とも、よく勉強してるじゃないか。」

リリス「つまり…アダム、あなたが戦争をあれだけ早くに平定できたのは…
“善悪の知識”、人々に精神を宿した神さまの、不思議な力を授かったから…
ということで、いいのかしら…?」

アダム「そういうことだ。
すごく簡単に言うと、この篝火の加護は、あらゆる“精神”を統べる力だ。
争っていた人達が次々に和平交渉の席についてくれたのは、こういうからくりだよ。
僕が特別、どんな人にでも慕われる人徳者だったわけじゃない。
対話をして尚、争いを望み続ける者には、言霊による“停戦命令”を発しただけだ。」

ヌル「あーあ。これで君の英雄伝も終わりだねぇ。
平和を愛した人格者、アダム・ブレイズの正体は、
世にもおぞましい“エデン”の力を手にした人ならざる者、ってことさ。
ま、私もなんだけどさ。」

オッド「…僕は、それでもあなたは英雄だと思いますけどね。
人の心を統べる力を持って尚、あなたは“世界の王”になろうとはしなかった。
いつも、ちゃんと相手と向き合って、対話することを絶対に諦めない。
皆を…世界を…平和を…愛していないと、できないことだと思います。
だから、僕にとってのアダムさんは、やっぱり正義のヒーローです。
あなたは“アストラルフレア”というものの正体を誰よりも知っていて、
そして、今、そのあなたが、
この“終末ノ病”の原因がかのエネルギーの“枯渇”だというなら、
…僕は、全ての“カガリビト”を破壊するべきだと思います。」

リリス「………。」

アダム「…この十数年、僕は彼らとの“共存”の道を探ってきた。
人の世は彼らの台頭によってとても豊かになったよ。
リリスが生んだ新しい“生命”は僕にとって、希望だった。
篝火を手にして尚成し得なかった…
誰もが幸せになれる世界が、すぐそこに見えた気がしたんだ。
だが、残念ながら、世界に満ちるアストラルフレアの総量は、決まっている。
何とか、カガリビトにも分け与えてやりたくて、
ずっと彼らの“心”と向き合ってきたけれど…。
潮時だ。私は、人々の“英雄”の名にかけて、“人命”を優先したい。」

ノア「そんな…。要は、アダムはエデンと契約してるんでしょ?
だったら、何とかならないの…?」

エルデ「…何とかならないから話してくれたんじゃないの?
あたしは賛成ね。死んだら元も子もないじゃない。
それ以外に選択肢なんか、ないわ。」

リリス「………私も、賛成するわ。」

ノア「リリス…!? だって…そんなの…。ここまであんなに頑張ってきたのに…。」

リリス「………ごめんなさい。ちょっと、独りにしてもらえるかしら。」

ノア「リリス…!待っ…」

リリスを追いかけようとした私を、ヌルさまが制止する。

ヌル「今は、独りにしてやりなよ。」

「さすがにきついでしょ。」と、いつもは人をからかってばかりの彼女が神妙な顔をしながらいうものだから、そこには重い沈黙が流れて。
私はどうするのが正解なのかわからなくなって、その場にただ茫然と立ち尽くしてしまった。

私達は今、北地へ帰る道中だ。
オッド先生は会談の後、そのままセントラル本部へ残留することになった。
「アダムさんが事を成し遂げるまでの間、僕は今苦しんでいる人達を全力で治療したい」とヌルさまへ直談判した形だった。
破壊する、と決まったものの、今やカガリビトは全世界の様々な分野で活躍している。
その間にも死者はきっと、出るからだ。

リリス「アストラルフレアの枯渇が原因であることを、まずは周知しないといけないわね。」

アダム「そうだね。段階的にカガリビトを回収すれば、回収が速かった各地から不満が出る。
全世界から“文明後退”の納得を得て、カガリビトを僕の力が及ぶ範囲に集めるしかない。
そうすれば、“篝火”の力で彼らの“心”を統べることは、可能だ。」

ノア「つまり、どういうこと…?」

アダム「…彼らには、“自殺”してもらうことになる。
要は、僕の力は“強制”する力と、“死”の呪いの掛け合わせだ。
“生”の呪いをヌルが持ってるのは、さっき話したとおりだよ。
“篝火”の力があれば、もしかして、
死にゆく運命の者に“生きろ”という強制が効くかもしれないと…
試したことがあったんだけどね。それだけは、できなかったんだ。
でも、“篝火”を守る“花園”は、あの時、僕に“死の代償”を課したから。
僕が一言“死んでくれ”といえば、おそらく、彼らは一斉に“死”を選んでくれる。
…今まで、一度たりとも使ったことはない“花園”の方の力だけれど、
ヌルが何をしても死ねないということは、逆の力もちゃんと発動するということだ。
…エデンにも、確認は済んでいる。」

ノア「は…!? いや、待って。そんなの、あんまりだよ…。」

リリス「…いいのよ、ノア。一番つらいのは、私達じゃないわ。」

アダム「…すまない。こんな提案しかできなくて。」

ノア「……。」

リリス「…ねぇ、ノア。あなた、このまま西地の故郷へ、帰った方がいいわ。」

ノア「…は?」

リリス「私はこの後、全世界から糾弾されることになるから。
そこにあなたは、居ない方がいいと思うわ。」

ノア「何言って…そ…そんなの、許されるわけないじゃない!?
誰もが、カガリビトの恩恵を今までさんざん享受してきたのよ?!
皆が望んだ…。リリスだけが糾弾されるなんて、ありえないわ!」

リリス「ノア。私ね、殺してしまったの。もう112人も。
インフィルマの悲劇だってそう。生態系に変化をもたらすほどの欠陥だったのに。
あの時、私がカガリビトを破棄していればこんなことにはならなかったの。
私のエゴが、たくさんの人を殺したのよ。」

アダム「……。裁きは、受けるべきだ。僕も、同罪だから。一緒に背負うよ。リリス。」

ノア「………そんなの、私は認めない。絶対に。
帰らないわよ。リリスを裁こうなんて、そんなやつが出たら、
私が八つ裂きにしてやるわ。妖精の力を舐めないでちょうだい。
…絶対、守るから。だから、傍にいさせてよ…。」

リリス「…気持ちは、とても嬉しいわ。ありがとう、ノア。」

アダム「とりあえず、今日は休もう。明日から、忙しくなる。」

リリス「えぇ、そうね。おやすみなさい。アダム、ノア。」

ノア「………。」

フォルスダッドコールにつくと、アダムが淡々とそう言って。私はそのまま、何も言えずに自宅へと帰ってきた。

ノア「他に、手はないの…?カガリビトも、人間も、みんなが共存できる道…。」

考えても、考えても、答えが出ない。

ノア「…せめて、凍結…って形じゃ、だめなの…?
自殺なんて…あんまりだよ…。」

まだ、時間はある。明日またリリスに提案してみよう。
これまで、力を合わせてきたんだもの。彼らを改良する時間さえ稼げれば…。
私の頭にはそんな考えがぐるぐると渦巻いていた。

▼翌日

(※ここからリリスがおかしくなる=罹患/ノアの後悔として残る重要節)

ノア「おはよう…リリス。」

リリス「おはよう。ノア。」

思っていたよりも落ち込んだ様子の見えないリリスに、私は少し安堵しながら、昨夜の相談を持ちかける。

ノア「ねぇ、リリス。私、考えたんだけど、凍結じゃだめなの?
アダムの力があれば、わざわざ自殺なんてさせなくたって…
眠れ、って命令してもらえばいいだけじゃない?
これまでも問題はたくさんあったけど、解決してきたんだから…。
今回だって改良する時間さえ稼げればきっと…」

リリス「凍結…?そう…そうね…。眠らせてしまえば…。」

ノア「…!そう、そうだよ!アダムにお願いしてみて、リリス!
きっとリリスの言うことなら、無碍にはしないと思うの。
あんなに家族を大事にしてきた人だもん。きっと…きっと大丈夫。」

リリス「うん…そうね……。ありがとう、ノア。やっぱりあなたは私の最高の助手だわ…。」

(※どことなくうつろな表情だが、落ち込んでいるのだろうと思っている為、
この段階で彼女の異変に誰も気づかない。)

※オフィスで一人、アストラルフレアの枯渇を全世界に周知する為の準備をしているアダム。

アダム「……。」

リリス「ねぇ、アダム。」

アダム「…やぁ、リリス。体調は、大丈夫かい?」

リリス「えぇ。それより聞いて。私、良い事思いついたの。
自殺させるなんて、やっぱりよくないわ。
だから、眠らせちゃいましょう?あなたの力で。」

アダム「リリス…。つらいのはわかるけど…。
どう頑張ったって、彼らが稼働すればまたアストラルフレアを喰らってしまう。
君が、一番わかってるだろ…?」

リリス「私がおばあちゃんになるまで、まだ40年くらいあるわ。
きっとアストラルフレアを消費しない改良だって、できるはずよ。
それに、私が糾弾されればイヴだってただじゃすまないわ。
そんなの、可哀想よ。だから、ね?」

アダム「そんな不確かな状態で、彼らを生き永らえさせるべきじゃない。
彼らは“人”を愛し続ける生命だ。他でもない、僕らがそう創ったんだから。
人々が苦しむ状況を、彼らは決して望まない。
それなのに、既に死者が出ている。彼らが殺してしまったんだ。
だからこそ、僕たちの手でちゃんと終わらせてあげるべきだろう?
それに、イヴのことなら、ヌルやオッド君に任せる準備はできているよ。
僕たちは罪を償うべきだって、君だって昨日はそう言ってたじゃないか…?」

リリス「昨日は昨日、今日は今日よ。気が変わったの。」

アダム「…………リリス?どうしてしまったんだ…。いつもの君らしくない。」

リリス「あら、私はいたって平静だわ。おかしいのは、あなたの方よ、アダム。
イヴと一緒に居られなくなるかもしれないのに。
そんな淡々と罪を償う、だなんて。イヴが大事じゃないのかしら。」

アダム「…………まさか、そんな風に思ってたなんて。
僕のことを一番わかってくれていると思っていたけど、
どうやら自惚れだったみたいだ。
君にはほとほと呆れたよ。リリス。」

(※アダム項にも記載したセリフがこの最後のセリフ。
要は、イヴが大事じゃない、の一言は彼にとっては禁句。
頭に血が上ってしまうアダムだが、この時既にリリスは罹患しているわけで、
彼はこの後、この時のリリスへの対応を永遠に後悔することになる。)

(※ここからリリスはイヴのことを忘れてカガリビトに執着し始めている。
多分ショックなことが起こるたびに記憶が欠けていってる。
彼女にとってアダムの上記一言はそれほどまでにショックだった、ということ。)

リリス「ねぇ、ノア…。私、アダムに嫌われちゃったみたいなの…。
困ったわ…。このままじゃカガリビトを…眠らせてあげられない……」

ノア「そう…。見損なったよ…アダム…。」

▼ノアEP8-5 (2097年):終末のアストラル② -『異変』

※ここからノアが出てこれないので、いったんアダム視点。

謝ろう。そう思った。リリスだって人間だ。
つらすぎる現実に、目を背けたくなることだってあるだろう。
なのに、僕ときたら…。

アダム「言いすぎてしまった…。
僕が一番、寄り添ってあげるべきだったのに…。
もう一度…、ちゃんと話さないと…。」

※リリスの大好きな紅茶を二人分淹れてから、彼女の部屋へ行くアダム。

アダム「リリス…。その、失礼するよ。」

リリス「……………。」(※気づいていない。うつろな目で窓の外を眺めている。)

アダム「無視は…つらいな。
怒ってる…よな…。ごめん。さっきは言い過ぎた。
………………リリス?」
(※あまりにも反応がないので、歩み寄って肩を軽く叩く。)

リリス「……あら?ごめんなさい、気づかなかったわ。
あなたが、アダム・ブレイズ…?ようこそ、機巧の聖地へ。
あぁ、着いて早々申し訳ないのだけど、ちょっと働いて…もらえるかしら…?」

(※↑アダムとリリスの出逢いのセリフ。
要は、アダムとの想い出、全部忘れちゃった。)

アダム「……あ、…ぁ…。」

(※リリスの罹患を察するアダム。
彼女と仲直りしようと思って持ってきたお揃いのマグカップが、
彼の手から滑り落ちて、粉々に割れてしまう。)

▼イヴ項目参照。※時系列的にここでアダムが北地離反決意。

・これ以降、とにかく破壊計画を優先する鬼と化す。(※リリスを助ける為)

▼ノアEP8-5 (2097年):終末のアストラル③
『フォルスダッドコールの惨劇①~凶行のリリス~』

『星も救って、カガリビトも救うの。
だって彼らはもう、“心”を持っているのだから。失敗は決して許されないわ。
さあ、馬鹿なことはおしまいにしてお仕事に戻って頂戴。
返事は…、“はい”か“Yes”しか聞きたくないわ。アダム。』

『ご期待に添えなくて残念だが、答えは“NO”だ。
君とイヴより大事なものなど、私にはないよ。』

『そう…。あくまで邪魔するというのね。
じゃあ、ここで二人とも死んで頂戴。』

『やめて、ママ…』

(※リリス項目より引用)

▼ノアEP8-5 (2097年):終末のアストラル④
『フォルスダッドコールの惨劇② ~滅びの信徒~』

リリス「ノア、彼らを殺してちょうだい。貴女なら、できるはずよ。」

ノア「…うん。裏切者には、死を。だよね。わかってるよ、リリス。任せて。」

『役立たずのご令嬢』 ▶

年表を見る ▶

※ストーリーはキャラクター順に繋がっています。