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オッド・メドロア


Voice:氷炎


旧暦(高度文明期)

享年:33歳
属性:炎・水属性
出身:セントラル(孤児)

新暦(人類滅亡後)

KEEPER=PISCES/魚座の守護者
役割:C-GE:支援型戦闘機巧


不穏な逸材 / 二魔ふたまを喰む遺狐

彼の現在のコードネームはKEEPER=PISCES。
『魚座』の名をその身に冠する中距離戦闘型アンドロイドで、躯体には戦闘用の仕掛けが多数施されている。常に火水のエネルギーが効率よく集まる特殊仕様を保有しており、強力な魔法戦闘も可能である旨、整備部門から報告が上がっているが、なぜだか彼は魔の力に頼りたがらない。自身にそんな制約を課す彼は、それでも決して仲間には迷惑をかけまいと、同部門所属のLEOとの体術訓練や、DAME=GEMINIとの武器改良に日々全力を注いでおり、強力な戦闘支援役として社会貢献を果たしている。
SAGITTARIUSには少々苦手意識があるようで、彼女が近くに居るとなぜだか常に気まずそうにしている。一方、役立たずと揶揄され続ける“ロールレス”にはかなりの愛着があるらしく、LEOになんだかんだと文句を言われながらも、よく世話を焼いているようだ。

そんな彼のオリジナルの魂の名は、オッド・メドロア。
魔の力を極度に嫌う少々偏屈な努力家の、壮絶な過去の軌跡を追ってみることにしよう。


キャラクターボイス


『人の役に立ちたいんだ』



『勘弁してくださいよ・・・勘弁してくださいよ・・・!!
・・・・・・絶対に・・・死なせるもんか!!!』


   

STORY

◀ 初めから読む

◀ 『役立たずのご令嬢』

▼『英雄の帰還』~『二派抗争』

オッド(29)「アダムさん・・・!!イヴちゃん・・・!!!よく無事で・・・!!」

イヴ(12)「・・・・・・オッド先生ぇ・・・」

アダム(37)「心配をかけたね。」

▼場面転換

オッド「・・・リリスさんと、ノアさんが・・・そうですか・・・。残念です・・・。」

アダム「とにかく、まずはリリスを奪還しないといけない。
彼女は既に“終末ノ病”に罹患している。
僕やイヴの記憶が欠けてしまっているから・・・。
もう、何をするか、わからない状態だ。」

フォルスダッドコールでの顛末を聞いて、僕は青ざめていた。
あのリリスさんとノアさんが、アダムさんとイヴちゃんを殺そうとするなんて・・・
目の前で気丈な態度を貫く英雄の心情を思うと、もはや何と声をかけていいか言葉が見つからず、重い沈黙が辺りを包んだところで、聞き慣れた声とともに、“友人”がドアを勢いよく開けて入ってくる。

アベル「アダムさん・・・・・・!!こちらにおられましたか・・・!
・・・って、オッド?おまえ、北地じゃ・・・??」

オッド「アベル・・・? 久しぶり。少し前に戻ってきてたんだ。」

アベル「そうなんだ。あとで飯食いにこーぜ・・・って、それどころじゃない・・・!
ヌル大将閣下より英雄、アダム・ブレイズ閣下へ伝令です。
その・・・、まずはテレビを付けて状況を把握しろ、と・・・・・・。」

アダム「・・・?」

何か含みのある彼の言い回しに首を傾げている英雄の代わりに、僕がテレビを付ける。

「・・・・・・というリリス・マイヤ卿からの驚愕の告発声明を受けて、グランドシャリオットはマイヤ卿 及び 機関職員の保護を最優先とした厳戒態勢に入っており、セントラル側の今後の対応に注目が集まっています。」

オッド「・・・なっ・・・何だよ、これ・・・。」

アダム「・・・ノアの入れ知恵だろうね。彼女はリリスが糾弾されることを怖れていたから。」

内容を要約すると、こうだ。
リリス・マイヤ卿の領地“フォルスダッドコール”は、事実上長らくセントラルの支配下であり、水面下では、英雄アダム・ブレイズによる“新型カガリビト”の研究が行われていた。
かの実験中に起こった事故によるアストラルフレアの“消費連鎖反応”こそが「終末ノ病」の原因である。
彼は当研究機関が「終末ノ病」を引き起こした事実を隠匿する為、その人智を超えた力を以て、世界で活躍する全てのカガリビトの破壊を画策し、私はそれを止めるべく、彼の拘束を試みたが、“英雄”の力を前に、彼のセントラルへの亡命を許してしまった。
私達は“慈愛”を掲げるこの気高きグランドシャリオットの威信にかけて、セントラルによるこれらの非道な行いを糾弾し、既に新たな生命として“心”を宿す彼らの人権、そして人類の安寧の双方を守らねばならない。
安易な破壊行動は“文明退化”を意味し、社会には再びの苦難が訪れるであろう。
今、「終末ノ病」より人々の命を守る為には、まず“連鎖反応”によるアストラルフレアの枯渇を食い止めるべく、全てのカガリビトの動力停止、及び、人類側のアストラルフレア消費制限を強化することが最善の策である。この窮地に際し、世界が一丸となることを願う。
さすれば、私はその後の彼らの改良にこの人生を捧げ、世界に再びの安寧をもたらす為の智慧を振るうことを約束する。
よって、我らは人智を超える力を有するアダム・ブレイズに対し、“全てのカガリビトの一時凍結”への協力を嘆願する。“平和を愛する英雄”からの人道的な支援が果たされることを切に願う。

アダム「・・・予想以上に動きが速いね。
フォルスダッドコールに長らく資金援助をしていたのはたしかにヌルだし、
僕は、エデンの契約者だから、その・・・
アストラルフレアの枯渇事情も、昔から把握していただけにね・・・
彼らの“疑似精神回路”に連鎖停止用の仕掛けを施してあるのも、
既にお見通しのようだ。“消費連鎖反応”・・・とは、してやられたな。
カガリビトの構造の知れば知るほど信じたくなる、何ともよくできた嘘だ。」

「脱出する時に核になる魔導宝飾奪ってきちゃったから怪しまれたかな・・・これ壊されると今後の一斉破壊がちょっと厳しいからつい大立ち回りしてしまったんだけど・・・これだから天才は・・・」などと至極冷静に自身が妻に殺されかけたであろう際の状況分析を行う目の前の英雄に、僕は驚きを禁じ得ない。これが、あの戦争を駆け抜けた彼の強さか・・・、と。少なくとも僕ならいったんこの世の終わりくらいには落ち込む状況だけど・・・

オッド「・・・そんなことまでしてたんですか。ぬかりないですね・・・。
それにこれ、こちらが“エデンの真実”を明るみにできない事情も計算されてますよね・・・。」

アベル「・・・なぁ・・・。まじで、意味わかんねぇんだけど・・・。
・・・もう、普段と同じ態度で臨んでいいっすか、マイヤさん。」

アダム「・・・ははは。君はタフだね。暫く気まずそうにされるかと思ってたけど。」

アベル「そうした方がいいならそうします。申し訳なかったのは事実なんで。
でも、多分そういうの、あなたは嫌なんだろうなって思ったから。」

アダム「よくご存じで。そのとおりだ。普通にしてくれ。
アダムでいい。・・・マイヤは、もう私が名乗ってはいけない姓だ。」

オッド「・・・?」

僕たちはあの後、お互いの状況を把握しながら、ヌル将軍の元へと向かっている。

アベル「はぁ・・・。まじかよぉ。北地で医者として活躍できてるとは聞いてたけど、
まさか、英雄の家でイヴの主治医してたなんて。」

オッド「あはは・・・。ごめん。守秘義務で・・・。
でも、僕も驚いたよ。アダムさん助けたの、君だったんだね。」

アベル「いや、まじでびびったけどな。夜中に足引きずった長い髪の女の子出てくるし、
無理やりテルミナの森まで引きずり込まれたと思ったら、
そんな自殺の名所に血まみれの人、倒れてんだもん。」

オッド「それは、ホラーだね・・・。」

アダム「その節は本当に世話になった。おかげで生き長らえたよ。」

アベル「・・・いや、助けられてよかったですよ。
この状況でアダムさんが死んでたらと思うとそっちの方がホラーっすから。
で、俺も、破壊に一票です。
もう情報多すぎてエデンがどうとかは、意味わかんない感はありますけど・・・。
聞けば聞くほど、奥さんの案が現実的じゃないのだけはわかります。」

アダム「できることなら、そうしてやりたかったんだけどね・・・。
アストラルフレアを分け合って、カガリビトと人が共存する道を選べば、
私達はおそらく、数多くの同胞の屍を超えていかなければならなくなる。
それに、僕は篝火・・・まぁ、つまりアストラルフレアの源流の守護者だから、
多分、終末ノ病にかかることすらできないと思う。
リリスを失って、イヴまでおかしくなって・・・
そんな世界で自分だけがまともな精神を保って生き残ってしまうのは、
正直怖いよ。」

アベル「英雄でも怖いものとかあるんすね。」

アダム「当たり前だろう? 僕は人だ。自分を英雄だと思ったことは、一度もないよ。」

アベル「はぁぁ・・・俺の夢がどんどん壊れてく・・・。」

アダム「・・・・・・君は、本当に遠慮をしなくなったね?」

アベルがいてくれてよかった。僕は二人の会話を聞きながらそんなふうに思う。
正直、アダムさんの今の状況は、茶化せるようなものではない。
僕だけだったらアダムさんに気を使わせてしまっていただろう。

アベル「さっ、着きましたよ。
失礼します、ヌル大将閣下。
アダム・ブレイズ閣下、並びにオッド・メドロア軍医局長をお連れしました。」

そう言って彼が案内してくれた部屋の扉を開けると、そこには将軍を初めとしたセントラルの幹部たちが勢揃いしていて、部屋の隅にはシン大佐も控えている。こちらに気付いた彼女はちらっと視線を合わせて、小さく手を振ってくれている。正直、何で僕はここにいるんだろう・・・という気分ではあるが、まぁ、事情を知ってしまった以上、乗りかかった船、というやつだ。

ヌル「ご苦労だった、アベル少尉。」

アベル「では、私はこれで失礼し・・・」

ヌル「どうせ二人から全部聞いてるんだろう?君の席もある。座りたまえ。」

アベル「い゛・・・っ!? わ、私もですか・・・。」

ヌル「あぁ、本日付で君は少尉から少佐に昇格だ。きりきり働いてくれたまえよ。」

アベル「二階級特進どころの騒ぎじゃないじゃねぇか・・・。」

ヌル「と、いうわけでだね。必要なポジションは全て与えた。
ここには私及びそこの英雄の正体を知る者しかいない。遠慮は不要だ。
改めて自己紹介をしておくが、私の真名は、レヴィア・リイン。
君達が始皇帝と崇める、この国の創始者だ。
そして、そこにいるアダム・ブレイズこそ、
私が求めて、尚、手に入れられなかった“篝火”の守護者である。
証明は、必要かね?」

エルデ「要らないわよ。なんなら頭ぶち抜いてやってもいいけど?」

大佐のその言葉に、幹部たちが一様にその首を横に振る。
当たり前だ。誰だってそんな凄惨な光景は見たくない。

ヌル「話が早くて助かるよ。痛いんでね。できれば勘弁して頂きたい。」

アダム「相変わらずだな、君は。」

ヌル「やぁ、アダム。君がセントラルにいるのは何年ぶりかな。
戦場の英雄のご帰還だ。せいぜい皆の士気を上げてやってくれたまえ。」

アダム「・・・はぁ。どこまでも遠慮のない人だ。ほんとに。」

ヌル「おや、慰めが必要かい? 妻と戦うことになるわけだからね。
私にも慈悲の心はある。腑抜けたままで居たいのなら、ここで引導を渡してやろう。」

アダム「できるんですか?お望みでしたら受けて立ちますよ。」

ヌル「なんだ、元気じゃないか。ならいいさ。
泣きべそかかれたままではお話にならないからね。」

アダム「・・・誰がいい歳して泣きべそなんかかくか。」

吐き捨てるように小声でそんなことを言うアダム・ブレイズを僕は初めて見る。
ヌル将軍なりの激励なのだろうか。正直ひやひやしていたのだが、どうやら杞憂のようだ。

ヌル「さて、悲劇の英雄の士気も確認できたところで、本題だ。
先刻、北地グランドシャリオットより事実上の宣戦布告を受けたところだ。
亡命したアダム・ブレイズを引き渡し、カガリビトの一時全凍結と、
終末ノ病収束後の早急な再稼働に協力せよ。
・・・とのことだ。
そこの英雄以外にはアストラルフレアの総量など、認知できない話だからね。
もはや話しても無駄さ。一度手に入れた富貴栄華を是が非でも手放したくないんだよ。
人間とはそういうものだ。特にあの国は少々人形風情に頼りすぎた。
今さら居なくなってもらっては困る、ということだろう。」

オッド「戦闘を避けることは、もうできないんでしょうか・・・。」

ヌル「やつら、必死さ。
リリス・マイヤ卿の声明については皆も知るところだろうが、
エデンを知る私としては、あんなものを受け入れるわけにはいかない次第でね。
まぁ、早い話が、人類は今、滅亡の危機に立たされている。
約1200年、様々な栄華と零落を観測してきたが、このような事態は私も初めてだ。
私としてはこのまま終末ノ病の餌食になるのはごめんだね。
心を持たぬ不死者など、文明後退どころの話ではない。
皆もこのままむざむざ死にたくはないだろう?
よって、今回ばかりは譲れない。
刃向かう者には死を。セントラル全勢力を以て、全てのカガリビトを殺せ。
これは、四大交差を統べし始皇帝、レヴィア・リインよりの勅命と心得よ。」

場が静まりかえる。無理もない。片手を頬について目の前に座る“それ”は、今まで見てきたヌルさんとはもはや別人で、その瞳はまるで氷のように冷たく、視る者全てを射貫き殺すかのような、『人ならざる者』の威厳に、今にも押しつぶされそうだ。

エルデ「はぁ・・・。あんたがこれほどまでに頼もしく見える日が来るとはね・・・。」

ヌル「なんだい、それでは今までが頼りなかったみたいじゃないか。」

エルデ「それで合ってるわよ。まぁ、いいわ。乗ってあげる。
あたし、死にたくないもの。早い話が叩き潰せばいいんでしょ?カガリビトを。」

オッド「刃向かう人を殺せ、はちょっと穏やかじゃないですけど、
カガリビトの方に関しては僕も賛成ですね。
アダムさんの力も、頼りにしていいんでしょうか?」

アダム「それに関してだが、おそらくあまりお役には立てないよ。」

エルデ「何で?死んでくれって言えば死んでくれるんじゃないの?」

アダム「言ったとおりだ、僕の力は“全ての精神を統べる力”だと。
おそらく戦線に投入されるカガリビトにはその対策がされてくる。
要は、疑似精神が搭載されていない機械に、僕の命令は効かない。」

オッド「あぁ・・・なるほど・・・。兵器としてなら、ただの戦闘機巧であればいいですもんね・・・」

アダム「そういうこと。リリスは元々“機巧”作りの天才だ。
壊されたくないものをわざわざ戦線に投入してくるわけがない。」

エルデ「なるほどね。つまり、カガリビトを破壊するには、
まずただの機械と戦わないといけない、と。」

ヌル「それと、魔法戦には気をつけてくれたまえ。
ただでさえ、アストラルフレアが枯渇している状況で
我々まで大量の魔素を喰えばどうなるかは、わかるだろう?」

オッド「・・・終末ノ病が、加速する。」

僕の一言に皆、一様に顔を見合わせる。厳しい戦いになりそうだ、と誰もが影を落とした時。

アベル「・・・俺、もしかして、出番?」

ここまでおろおろしながら会話を見守っていた魔素適性の低い“新米少佐”が、明らかに場の空気にそぐわない間の抜けた一言を発して。僕達は思わず少しだけ、笑って。
そして、この終末の危機を生きて脱する為に、各々ができることを、精一杯やろうとこの時みんなで誓ったんだ。
絶望的な状況でも、決して諦めない。

オッド「(・・・僕は、皆と出逢えたことを、誇りに思うよ。)」

いつ、誰が死んでもおかしくないこの状況で、僕はそんなことを考えずにはいられなかった。

▼4年後ー。(旧暦2101年/ODD(33)『水の魔素喰らい』)

北地からのセントラルへの事実上の宣戦布告によって、世界は二分された。
あの後、もちろんセントラル側からは『英雄アダム・ブレイズ』直々の弁明と反撃が為され、結果、『破壊派』と『凍結派』の二派抗争が始まったのだ。
末端にはもはや何が真実かもわからぬ中で、これまで数々の平和的解決を実現し、この状況でもまた、どこまでも“人命”を優先する彼の姿勢に心を打たれた者は多かったということだ。

そうして始まった再びの戦争によって、アダムを支持する『破壊派』は、日々カガリビトの数を減らして何とか人々が生きられるだけの“空気中魔素量”を確保し続けることで、終末ノ病の症状の進行をできるかぎり食い止めながら、気付けば4年もの月日が流れていた。

“篝火”の守護者、アダム・ブレイズ曰く、四大交差の“星幽源流”から生まれるアストラルフレアの量は常時一定で、また、“従来の生物”に関しては命が尽きた際、そのものの保有していたアストラルフレアは正しく星へ還っていく、とのことだったが、どうやら機巧の方はそうではないらしく、状況は徐々に悪化の一途を辿っている。

アダム「機械は容易には土に還れないだろう?
だから、彼らが取り込んだアストラルフレアはそこにずっと残留して、
徐々に腐って、星にとっての異物となっていくんだよ。」

(※未来で旧型が暴走する原因の布石としての概念です。by lily)

と、そんなふうに世界の深淵を覗いた彼に言われて、僕達は誰もが、安逸を貪ることの罪深さを知ったのだ。
リリス卿が始めた“新しい生命の創造”、そして、使役。
それはもはや神の領域で、人が手を出してはいけない禁忌だったのだ、というのが、破壊派の掲げる常套句となって久しい。だからこそ、自らの手で終止符を。それが我らの信念だ。
一方、凍結派の「彼らはもう生まれてしまった。私たちは誰もが“親”としての責任を果たさねばならない。」という主張もまた、道理は通っている。
“要らなくなったから、殺す”―― 人間に適用して考えれば、たしかに僕たちはずいぶんと非人道的な行為に手を染めているのだろう。

オッド「僕たちに・・・再び手を取り合える日など、本当に、来るんだろうか。」

僕はひとり、そんな物思いに耽ることが増えている。
正直、疲れていた。
戦争による負傷者と、“終末ノ病”の罹患者で、医療現場は混沌を極めている。
救えなかった命に想いを寄せる暇すらない。

オッド「それでも・・・最後まで諦めたくないんだ・・・。」

自らに言い聞かせるようにそう小さく呟くと、僕は寝不足の身体に鞭打つ形で、自身の戦場へと戻っていく。

エルデ「次はどうすればいい?」

オッド「あ、はい。あそこの棚からありったけ包帯持ってきてもらえると助かります。
なんか、すみません、大佐もお疲れでしょうに・・・。」

エルデ「大丈夫よ、部下にこのまま死なれるよりマシだわ。行ってくる。」

僕は今、負傷者の手当てに追われている。ここは「終末ノ病」の治療区画なはずなのだが、救命病棟側の受け入れが追いつかなくなってしまったとのことで、動ける医療チームが総出で対応に当たっている最中だ。
あまりにも人手が足りなくてばたばたしていると、彼らを運んできた、自分も任務に当たっていたであろう血まみれの大佐が手伝いを申し出てくれたのだ。
その様相を見て「大丈夫ですか?!」と青ざめた僕に、「大丈夫よ、全部自分の血じゃないから」と悔しそうに返した彼女のその言葉で、今回の前線がどれだけ凄惨な状況に陥ったかが伺える。

ヌル「オッド・・・!!!最優先だ・・・!!絶対に殺すな・・・!!!」

いつになく焦った様子でヌル将軍が駆け込んでくる。その後彼女の部下によって担架で運び込まれた“患者”に僕は、目を見張った。自分でも背筋が冷えていくのがわかる。

オッド「アダムさん・・・!!!!」

心肺停止状態だ・・・。外傷があるわけではない。だが、彼のもともと涼しく端正なその顔に一切の生気はなく、誰の目から見ても絶望的な状況なのは明らかだった。

エルデ「・・・・・・な・・・何で・・・アダムは終末ノ病にはかからないって・・・言ってたじゃない・・・。」

普段は冷静な大佐が、その場にへたりこんでしまっている。
僕と、医療チームの部下達とで必死の蘇生措置を開始するも、状況に改善は見られない。
涙が込み上げてくる。息が上がる。うまく呼吸ができない。

これまでたくさん、助けてもらった。
孤児として育った僕が知らなかった、たくさんの“愛”を、教えてもらった。

・・・まるで、父さん、みたいな人だった。

オッド「勘弁してくださいよ・・・。勘弁してくださいよ・・・!!!
・・・・・・・・・絶対に、死なせるもんか!!!!」

パリン・・・と音を立てて、彼がくれた制限装置の魔導宝飾が弾ける音すらもう聞こえず・・・。
軍医「待て・・・!!オッド・・・!!やめろ!!!」
次の瞬間、僕は“父”に向かって、“蘇生魔法”を発動してしまったんだ。

▼(ヌル視点)

ヌル「・・・・・・。」

水の“魔素喰らい”の力を、私はこの時ほどありがたいと思った事はない。
辺り一帯の魔素が彼に収束し、翠煙が具現化する。
周りの患者や軍人たちの“命”すら喰らって、アダムはこの時一命を取り留めた。

彼はかの花園から“死の代償”を課されて、“篝火”の力を手に入れた。
それが彼の“半生”だということを、私は、知っていた。
もう助からない、とわかっていて、私は彼をオッドのもとへ導いた。
彼が稼いだ救国の英雄のわずかな余生で、“篝火”は娘のイヴに受け継がれ、
遠い未来にわずかな希望が紡がれた。

オッド「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・・・・・・・。」

エルデ「・・・・・・泣く・・・な・・・よ・・・。これで・・・よかった・・・んだ・・・よ・・・・・。」
見知った同胞が、彼の腕の中で静かに事切れる。

ヌル「よくやった。」
狂ったように泣き叫ぶ彼を置いて、私は病室を後にする。

― 病棟全滅。
それが、オッド・メドロアの残した最大にして最凶の功績だ。
君と共に、私も背負おう。この罪を。
遠い未来で、自ら“死”を選んだその気高き心が救われることを、私は切に願っている。

『ノアの方舟』 ▶

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※ストーリーはキャラクター順に繋がっています。